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DU BOOKS編集長に訊く、”濃すぎる”音楽書を作り続ける理由

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 音楽好きにはお馴染みのレコード店・ディスクユニオンには、出版部門のDU BOOKSがある。80年代のアイドル歌謡から洋楽的なエッセンスに溢れる隠れた名曲を紹介する『ラグジュアリー歌謡』、日本の音楽シーンに足跡を残してきた編曲家たちのエピソードをまとめた『ニッポンの編曲家』、カニエ・ウェストのアルバム『マイ・ビューティフル・ダーク・ツイステッド・ファンタジー』一枚のみを取り上げて論じた『カニエ・ウェスト論』など、音楽通をも唸らすマニアックな書籍を次々と刊行してきたDU BOOKSは、一体どんな方針で出版事業を行っているのか。DU BOOKS編集長の稲葉将樹氏に、レコード店が出版事業に進出した背景から、その文化的意義、音楽書を巡る状況についてまで語ってもらった。(編集部)

「フィジカルなモノの魅力は簡単には失われない」

ーーディスクユニオンが出版部門となるDU BOOKSを立ち上げた理由は?

稲葉将樹(以下、稲葉):ディスクユニオンは音楽ソフトの販売を主な事業としていますが、昔から自社で音楽レーベルをやっていましたし、店舗で書籍の販売をしていたこともあり、自分たちで本も作っていこうという意向がありました。ディスクユニオンは音楽好きが集まった会社で、スタッフの中にはライターとして音楽専門誌に執筆している者もいたので、自社に出版部門があれば、彼らの中から出てくる有益な音楽書の企画を実現しやすくなります。2011年まではディスクユニオンのカタログブック『DU / ディー・ユー』のほか、単発でいくつか書籍を出していましたが、2012年4月から本格的にDU BOOKSを立ち上げ、『スティーリー・ダン Aja作曲術と作詞法』など音楽書を中心に発行してきました。

ーー2012年当時、出版ビジネスに参入するのはかなり挑戦的な判断だったのでは?

稲葉:私も最初は正直、そう思いました(笑)。しかし、ディスクユニオンは音楽ビジネスがフィジカルから配信へと移行していき、CDがどんどん売れなくなっていく中でも成長を遂げてきた会社です。言ってみればアナログレコードなんて、昔の媒体ですが、それでも好きな人はずっと好きで買い続けています。五感に訴えるフィジカルなモノの魅力は簡単には失われないことを、我々はよく知っていますし、だからこそ紙の本はなくならないという確信が代表の広畑にはあったようです。その意味でもアナログレコードと紙の本は親和性が高いし、ディスクユニオンの店舗なら、外的要因に左右されずに売ることができるはず。出版は、我々がやるべきビジネスだという認識がありました。

カーク・ウォーカー・グレイヴス『カニエ・ウェスト論 《マイ・ビューティフル・ダーク・ツイステッド・ファンタジー》から読み解く奇才の肖像』

ーーDU BOOKSの書籍は、新刊となる『カニエ・ウェスト論 《マイ・ビューティフル・ダーク・ツイステッド・ファンタジー》から読み解く奇才の肖像』もそうですが、マニアックな視点の音楽書が多いと感じています。制作する本はどのような基準で決めているのですか?

稲葉:まだ活字になっていないものを本にするという意識はあります。例えば、アーティストのインタビューは新譜が出るたびに様々な媒体に掲載されますが、その新譜を制作した裏側の人ーー例えば編曲家やエンジニアの言葉は残っていないことが多い。ディスクユニオンは録音芸術全般を扱っている会社(ソフトもハードも)ということもあり、彼らの言葉は積極的に取り上げていきたいと考えています。『細野晴臣 録音術 ぼくらはこうして音をつくってきた』(2015年)は、まさにそうした一冊ですね。

 また、店舗で働くスタッフはものすごい量のレコードを聴きまくっているヴァイナル・ジャンキーで(笑)、一般的に流行っているものはすでに掘り尽くしていて、普通はディグらないようなものに興味を抱いていたりします。彼らの感覚は時代の2〜3歩先を行っているのでビジネス的には難しいかもしれないけれど、後から世の中がついてきたりして、ロングセラーとなるケースがあります。当たるかどうかはわからないけれど、ディスクユニオンの店舗に置き続けることができるので、彼らの企画もよく採用しています。ディスクユニオンでノイズ/アヴァンギャルドコーナーのバイヤーを務めた持田保の『INDUSTRIAL MUSIC FOR INDUSTRIAL PEOPLE!!! 雑音だらけのディスクガイド511選』(2013年)は、じわじわと売れ続けて三刷までいきました。こうしたニッチなジャンルの本を作ることで、そこから新しい音楽の楽しみ方が広がることもあります。

ーーその楽しみ方には、例えばどんなものが?

藤井陽一、ほか『ラグジュアリー歌謡 (((80s)))パーラー気分で楽しむ邦楽音盤ガイド538』

稲葉:ディスクユニオンでも当時は買い取っていなかったような昔のアイドルのレコードなどを聴いていると、今の耳で聴いても良いものがあると気づいた元スタッフが著者となり、そこから『ラグジュアリー歌謡』(2013年)という本が生まれました。この本を通じて、良曲には良い編曲家が欠かせないということにも注目が集まり、『ニッポンの編曲家』の企画にもつながりました。さらに、その本の編集者が、特に注目すべき存在として松田聖子の「SWEET MEMORIES」の作・編曲などで知られる大村雅朗を取り上げた『作編曲家 大村雅朗の軌跡』(2017年)の企画につなげていきました。大村雅朗は『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で取り上げられるなどして、いま改めて注目を集めていますし、編曲家やバック・ミュージシャンにも着目して、歌謡曲を聴く人も増えましたが、その背景には一連の書籍の影響もあると考えています。

川瀬泰雄、ほか『ニッポンの編曲家 歌謡曲/ニューミュージック時代を支えたアレンジャーたち』

ーーそうした書籍で収益を上げていくのは、かなり大変なのでは。

稲葉:こうした本は売れるまでに時間がかかるものなので、ビジネスとしてはたしかに大変です。熱心な音楽好きのお客様が集まるディスクユニオンという店舗があって、売り場に長く置いて直売することができるという強みがあるからこそ成り立つ企画かもしれません。

ーーDU BOOKSの書籍は資料性が高いので、マニアックな知識を求める音楽ファンにとって貴重なものだと思います。他にDU BOOKSにとってエポックメイキングとなった本は?

冨田恵一『ナイトフライ 録音芸術の作法と鑑賞法』

稲葉:冨田ラボこと冨田恵一さんが、ドナルド・フェイゲンの『The Nightfly』という一枚のアルバムについて徹底的に語り尽くす『ナイトフライ 録音芸術の作法と鑑賞法』は、これまでになかったタイプの音楽書として話題になり、ロングセラーになりました(参考:冨田ラボが語る、録音芸術の価値「スタジオでの録音は途轍もなくおもしろい」)。『J・ディラと《ドーナツ》のビート革命』(2018年/参考:『J・ディラと《ドーナツ》のビート革命』訳者・吉田雅史に聞く、ヒップホップ批評の新たな手法)など、アルバム一枚を掘り下げて解説する洋書の「33 1/1」シリーズを参考にした企画だったのですが、冨田さんの筆が止まらず、我々の想像をはるかに超えて濃い本になりました。冨田さんはミュージシャンであり、プロデューサーであり、優れた鑑賞者でもあるため、様々な視点が交差しているのですが、それはあたかも絵画の批評のようでもあり、音楽鑑賞の仕方が変わったとの感想を多くいただきました。

      

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