異世界転生へのアンチテーゼ小説? 伊藤ヒロ『異世界誕生 2006』が投げかけるもの

『異世界誕生 2006』が投げかけるもの

 ならば、そのような重いものを抱えてしまった人は、どう生きればいいのか。答えは人の数だけあるのだろうが、そのひとつを作者は、物語の力と絡めて、鮮やかに表現したのである。ストーリーは捻りに捻っているが、テーマは王道。読む人によって評価の分かれる作品だろうが、私は強く支持する。

 なお、2006年という時代設定も絶妙。今や巨大なネット小説の投稿サイトとなった「小説家になろう」が開設されたのは2004年である。しかし当時はまだ、ネット小説の主流は個人のHPだと記憶している。さらに、2チャンネルへの晒しや炎上なども、時代の空気を感じた。当時のネットの状況を知る人なら、懐かしく読むことができるだろう。

 ところで本書の「あとがき」によると、2巻を書く予定があるという。本書だけで綺麗にまとまった話を、どう続けるのか。こちらの予想を裏切る作品を期待している。

■細谷正充
1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。

■書籍情報
『異世界誕生 2006』
伊藤ヒロ 著
やすも イラスト
発売/発行:講談社
価格:本体640円

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