『なめらかな世界と、その敵』『ベーシックインカム』……円堂都司昭がSF&ミステリー注目作を読む

 謎解きを主眼とするミステリー小説の場合、推理が進むにつれて事件のみえかたが二転三転した後、ようやく真相が解明される構成をとることが多い。阿津川辰海『紅蓮館の殺人』(講談社タイガ)も、基本的にそのように書かれている。同作の特徴は、2人の探偵役が立場の違いから摩擦を起こしつつ、物語が進むことだ。

阿津川辰海『紅蓮館の殺人』(講談社タイガ)

 山火事にでくわした高校生たちが、隠棲したミステリー文豪の館へかけこむ。だが、そこで救助を待つ間に文豪の孫娘が吊り天井で圧死する。からくりだらけの館での死は、事故か殺人か。現場に山火事が到達するまでタイムリミットは35時間。真相解明か脱出か、なにをすべきか人々の意見は割れる。

 嘘に敏感で探偵である自覚を持つ高校生は、当然のごとく事件を推理する。彼にとって、探偵は生き方だからだ。だが、過去の苦い経験から探偵であることをやめた人物は、推理に耽溺することで現実から目をそらすなと主張する。真実解明を最重要とする探偵と、まず目前の苦境を乗り越えるのが最優先だという元探偵が衝突する。状況への対処をめぐる2つの視点のせめぎあいが、ミステリー小説としての展開の面白さにもつながっている。

相沢沙呼『medium 霊媒探偵 城塚翡翠』(講談社)

 相沢沙呼『medium 霊媒探偵 城塚翡翠』(講談社)の探偵役も、能力の異なる2人である。警察の捜査へ助言してきた推理作家の香月史郎は、城塚翡翠という霊媒と出会う。彼女は、霊視によって事件の手がかりや時には犯人自体を知る。だが、当然、霊能力は証拠にならない。だから香月は、翡翠に教えられた真相を警察に納得させるための理屈として、推理を逆算して組み立てるのだ。

 真相追求の手段として霊視と推理があるのだが、どちらか片方だけでは現実的解決にたどり着けない。本作は2人がタッグを組むことで次々に事件を解決する連作形式をとっている。そのうえで、作者が大胆なたくらみを仕掛けていたことに驚かされる。

深水黎一郎『ミステリー・アリーナ』(講談社文庫)

 『紅蓮館の殺人』と『medium』は、どちらも2人の探偵役を登場させ、事件に対する2つの見方を用意していた。正しさや真相について複数の視点を設定したのである。一方、ミステリーには二転三転の展開がつきものだが、「転」を極端に増やした多重解決ものと呼ばれるスタイルがある。推理が何度も何度も行われ、謎に対する解答がいくつも積み重ねられるのだ。近年の代表的作品として深水黎一郎『ミステリー・アリーナ』(原書房/2015年)、井上真偽『その可能性はすでに考えた』(講談社/2015年)などがあげられる。

 ポスト真実(トゥルース)などという言葉が新奇なものではなくなり、ニュースが真実かフェイクかすぐにはわからず、いくつもの可能性が考えられてしまう。今では、そんな状態が当たり前になってしまった。正義や真実に関して異なる立場の探偵が複数登場したり、いくつもの解決が示される作品が目立つようになるのも、自然な流れかもしれない。

 深水黎一郎は、多重解決ものの延長線上で『犯人選挙』(講談社)という意欲的な試みを行った。同作はもともと講談社ウェブサイトに問題篇が無料公開された後、7つの選択肢から読者に犯人を投票してもらう趣向だった。とはいえ、選挙に当選した犯人の物語だけを書いたのではない。作者は、選択肢すべてを成り立たせてみせた。強引なのに論理的でもある解決篇の数々は、荒技なのに緻密でもある。ユーモラスなアクロバットだ。

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