『ap bank fes '25』はなぜ東京ドームだったのか 20周年を迎えた歴史と縁、Bank Band「カラ」へと帰結するメッセージ

『ap bank fes '25 at TOKYO DOME ~社会と暮らしと音楽と~』の開催がアナウンスされた時、真っ先に思い浮かんだのは、なぜ東京ドームなのだろうということだった。
『ap bank fes』にとっての、Bank Bandにとってのホームであるつま恋という場所に、たくさんの思い出が詰まっている人であれば、その考えに共感してもらえるのではないかと思う。屋内と野外。真冬と真夏。都市と自然。つま恋を始まりの地に環境問題を考える取り組みから、淡路島、みちのく/石巻といった被災地でも行ってきた復興支援の側面も持つ『ap bank fes』が、2025年の今、東京ドームで開催する意図とは何なのか。
2月15日、16日の両日、現地に足を運び取材をして見えてきたのは、2005年の初開催から20周年を迎える『ap bank fes』の歴史と縁、東京という街で開催することの意義、さらに昨年『百年後芸術祭~環境と欲望~内房総アートフェス』の一環として、小林武史がプロデュースし行われたスペシャルライブ『通底縁劇・通底音劇』のメッセージ性やアートフェスとしての流れも演出に踏襲した、全てが東京ドームへと帰結する『ap bank fes』という印象を受けた。
2日間の大まかな構成は、「Bank Band with Great Artists」「Band Act」という今までの形式と大きくは変わらないが、アクトの合間に「Performance」「Break Movie」がインサートされていることはこれまでと異なる点であり、『通底縁劇・通底音劇』の延長線上にあるように思える。オープニングパフォーマンスにも参加しているアオイツキの2人が所属する東京QQQは、Mr.Childrenの前という出番もあり、多くの人が目撃したパフォーマンスだったことだろう。特に2日目に湧き起こった温かな拍手は、強烈で眩しい9人の生き様が観る人の心に響いたことを感じさせた。


Band Actとして、初日のトップバッターを飾ったのは、東京スカパラダイスオーケストラ。世界中のフェスを盛り上げてきた百戦錬磨のスカパラが、「Paradise Has No Border」「スキャラバン」といったスカのリズムで、たちまちドームを揺らしていく。スカパラがデビュー30周年にリリースした、桜井和寿をゲストボーカルに迎えた「リボン feat.桜井和寿」。桜井はスカパラホーンズを引き連れ、ステージの上手、下手を満面の笑みで駆け回る。サビにある〈大騒ぎしよう〉の歌詞がフェスの幕開けにマッチしていた。また、同日に出演していたimaseを呼び込んでの「一日花」も、“始まり”を歌った楽曲。出演アーティスト同士の繋がりによるコラボという、これまでの『ap bank fes』でも稀なケースに数えられる。






スガ シカオが同日出演のB’zから松本孝弘を迎えての「Real Face」も、作詞(スガ)、作曲(松本)の間柄で、2021年に松本がスガのセルフカバーをプロデュースしていたことから披露された、誰もが予想しない選曲だった。KAT-TUN解散発表から数日後というタイミングだっただけに、会場も異様な盛り上がりとなっていたが、ダンサー20人が横一列に並んだ「午後のパレード」も十分異様な光景だったことをここに特筆しておきたい。



『ap bank fes』はもちろん、『super folklore』でもメインアクトの一人として出演していたスガは、この20年の歴史において欠くことができない存在だ。そして、言うまでもなくSalyuもその一人。「to U」を筆頭にして、数多くのBank Bandの楽曲でボーカルを務め、Salyu自身もデビュー当初から『ap bank fes』に「引っ張ってもらってきた」と認めている。出産報告から披露された「VALON-1」は、小林プロデュースによる2004年のデビュー曲だが、〈体のどこかに流れる あなたとの似たもの〉という歌い出しに対する捉え方の変化に驚きを隠せなかった。



「Bank Band with Great Artists」の前半ブロックでは、小林と亀田誠治がそのアーティストを紹介するVTRが流れてから登場するという、『ap bank fes '23』の形式が一部受け継がれている。スガやSalyuに関しては例外ではあるが、亀田から飛び出していた「若手がすごい」の言葉が示すように、初日のアイナ・ジ・エンド、imase、2日目のmilet、上白石萌音はその枠に当てはめても間違いではないだろう。
アイナが『ap bank fes '23』でも歌唱していた「キリエ・憐みの讃歌」は小林プロデュースの楽曲。アイナはBank Bandメンバーの周りをひらひらと舞い踊りながら、自身の世界観をステージいっぱいに放っていく。無観客生配信ライブとして開催された『ap bank fes'’21 online in KURKKU FIELDS』に出演していたmiletにとっては、今回が初めての有観客での『ap bank fes』。「inside you」といった代表曲で、互いの心と心を繋げていく。上白石については、『news23』(TBS系)のエンディングテーマ「夕陽に溶け出して」を小林が楽曲提供している。上白石が特に好きだという〈感性のボリュームを上げて〉の歌詞を例に、『ap bank fes '25』のテーマとレゾナンスしていると強く感じた1曲だった。









