『ap bank fes '25』はなぜ東京ドームだったのか 20周年を迎えた歴史と縁、Bank Band「カラ」へと帰結するメッセージ

  Mr.Childrenは、両日とも全8曲、50分のステージを披露した。桜井が「社会と暮らしと音楽と」というタイトル、フェスのテーマに相応しい選曲をした、とMCで話していることからも明らかなように、その1曲1曲に忍ばせたメッセージが新たな輝きを放つような、『ap bank fes '25』で演奏することの意味を強く感じさせるライブだったように思う。例えば、1曲目の「擬態」。〈目じゃないとこ 耳じゃないどこかを使って見聞きをしなければ 見落としてしまう 何かに擬態したものばかり〉という歌詞は、混沌とした現代社会を映し出しながら、今回のフェス開催に向け、櫻井が作詞を手がけたBank Bandの新曲「カラ」とも通ずる部分があるように思えた。続く「海にて、心は裸になりたがる」もまた「カラ」と同じテーマ性を感じさせつつも、こちらはバンドとしての身体的なパフォーマンス、メンバー同士のやり取りに思わず笑顔になる。ラストサビ前、桜井が中川敬輔にマイクを預けるのがライブの定番になっているが、2日目は田原健一越しに中川を見つけ、慌ててマイクを向けるやり取りが微笑ましかった。

 「Brand new planet」を経ての「街の風景」はライブ初披露となる、いわゆるレア曲。Bank Bandから、小倉博和(AGt)、沖祥子(Violin)、小田原 ODY 友洋(Chorus)、イシイモモコ(Chorus)を迎え、特別編成で演奏された。思い描くのは、喧騒の街・東京。ミクロとマクロの視点で、その街での暮らしにスポットを当てながら、愛する人への思いを歌う。〈フリーズして動かない〉の歌詞で入る、田原のギターによる歪んだギターが、楽曲の大きなアクセントになっている。今も続く紛争地域に思いを馳せるかのように感じた「タガタメ」、そして初年度の『ap bank fes』を想起させる「HERO」。2日目の「HERO」は特に、大サビ前のフレーズにて、桜井が感極まっているような、気迫溢れるステージングだった。暗転でセットリストに“線引き”をしてから、小林を迎え入れ、演奏したラストナンバーはバンドにとっても特別な曲になっている「彩り」。「『ap bank fes』がなければできなかった、小林さんと出会ってなかったら生まれてなかった」と桜井が話す「彩り」は、〈ただいま おかえり〉とファンとの関係性を確かめ合う楽曲でもあるのだと、桜井の「愛してます」という一言で改めて再確認した瞬間でもあった。

 Bank Bandとしてのパフォーマンスでは、冒頭ブロックの「トーキョー シティー ヒエラルキー」に、東京で歌うということからの選曲意図を感じさせる。一方で「奏逢 ~Bank Bandのテーマ~」は、つま恋という思い出の詰まった地をフラッシュバックさせた。槇原の「遠く遠く」と同様に、東京という場所だからこそ、離れたその地を思うことができる。筆者にとっても、つま恋が〈ただいま〉と帰る場所になっていることを、今回の開催を通して強く実感した。2023年に亡くなったKANもまた、『ap bank fes』に欠かすことのできないユニークで、歌うことに真摯なアーティストだった。櫻井はシンプルな編成での演奏で、KANの「50年後も」を歌う。そこに悲壮感はなく、まるで大好きなKANの歌を家で歌うかのよう。KANだけでなく、Break Movieの中で『ap bank fes』におけるレジェンドと言える井上陽水や『ap bank fes'06』にて出演が叶わなかった忌野清志郎、エンディングにてap bankの設立に関わった坂本龍一の名前が出たことも、20年間の歴史の重みを感じさせた。

 両日ともにラストに披露されたBank Bandの「カラ」は、『ap bank fes ’25』における核となるメッセージが込められている。コーラスにはアイナ、上白石、Salyu(ライブではmiletも)が参加。MVにはアオイツキの2人が出演している。変わり続ける都市。カオスの海に溺れそうになる、現代の情報社会。それでも櫻井が歌うのは、〈ただ「ともにある」「あなたとある」関わり合って生きている〉ということ。かつてビッグエッグと呼ばれた東京ドームで、殻を破って、空になって。Superflyの越智が話していたような些細な生きがいでもいい。この出会いをきっかけに一人ひとりの未来が少しでも変われば、という祈りにも似た思いを花吹雪が舞う東京ドームの景色に見た気がした。

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