MISIA、宮本浩次、Mr.Children……Bank Bandとゲストによる映画のように強いメッセージ 『ap bank fes ’21』レポート
まるで映画のように、強いメッセージを訴えかける“作品”だった。2005年から、環境問題や災害支援などをテーマに掲げてきた野外音楽フェス『ap bank fes』。今年はサステナブルファーム&パーク「KURKKU FIELDS」から、『ap bank fes ’21 online in KURKKU FIELDS』と題し、初の無観客配信での開催となった。10月3日に生配信されたが、今回は、10月10日に追加スペシャルライブも合わせて配信された「特別版」の模様をレポートしていきたい。
広大なKURKKU FIELDSの自然からはじまった映像に、これまでの『ap bank fes』の写真が挟み込まれていく。そこに重なるように〈忘れられない人がいる/どうしても会いたくて/またここへ来る 思い出の場所へ/その人のために今は 何もできない〉と、櫻井和寿が歌い出す。Bank Bandのパフォーマンスだ。これまでも彼らが演奏してきた、小田和正の「緑の街」。今の状況に寄り添いすぎていて、しょっぱなからグッときた。あいさつのように定番の、Bank Bandのオリジナルソング「よく来たね」ではないところにも、対面の再会までこの楽曲を取っておいているのだろうか? などと想像してしまう。続いては、キリンジ「Drifter」。〈人形の家には人間は棲めない/流氷のような街で/追いかけてたのは逃げ水〉――美しくも壮絶な名曲が、早くも登場した。演奏が終わると、櫻井が「はじまりました、『ap bank fes ’21』!」と初めてのMC。「カメラの向こうにニコニコ笑顔がいるイメージで」と言い、今響くべき一言一句が詰まった中島みゆきの「糸」を聴かせた。
ここで小林武史が口を開き、ひとり目のゲストである、『ap bank fes』初登場のmiletを紹介する。胸に手を当てて現れたmiletは、少し緊張気味にも見えたが、ひとたび「inside you」を歌い出すと、印象的な歌声を伸びやかに響かせる。「胸が高鳴って、どっか行っちゃいそう!」とピュアな笑顔を見せると、続く「なんてことない日の美しさ」を描いた「Ordinary days」も、誠実に歌い切った。
ふたり目のゲストは、小林の「『ap bank fes』皆勤賞」という言葉で呼び込まれたシンガー……そう、もちろんSalyuだ。〈涙の後には虹が出る〉という名フレーズを歌う彼女に呼応するように、午後の陽光が緑を輝かせていく。そして「THE RAIN」。彼女の歌声とBank Bandの演奏は、さすがに阿吽の呼吸だ。観ている一人ひとりの気持ちだけではなく、今の時代の空気も押し上げていくように感じられた。
次に小林が、9月29日にベストアルバム『沿志奏逢 4』がリリースされたことを告知する。今作の選曲を引っ張ったのはレコード会社の男女ひとりずつのスタッフで、エゴからはじまったのではない『ap bank fes』は、スタッフの意見も鑑であるということ、そしてスタッフの女性が推したのが、次の楽曲であるということを明かした。〈晴れわたる空に白い雲 君とぼくがいて/なんでもないんだけど ただ笑ってる〉――登場したKANが歌い出したのは、こんな日にぴったりの「何の変哲もないLove Song」だ。しかし、いつもながら、その衣装はファンキー。ギラッギラの黄色で羽根まで背負っている。しかし、何のコメントもしないまま演奏を終え、鍵盤の前に座り「愛は勝つ」を畳みかける。もう、語らずとも曲が語る、それぐらいの強い曲ということは、誰もがわかるだろう。
熱唱の後、やっと「少しオシャレしてきました」と言っていたけれど、今度は誰もが画面を見ながら突っ込んだだろう、少しじゃない、と。ちなみに、この衣装につられて、ハチが寄ってきたそうだ。気づけば隣に登場した櫻井も、羽根を背負っている。「Mr.Childrenの方ですか?(KAN)」「違います(櫻井)」などといったやり取りを挟み、KAN曰く「今最もやりたい曲」である「君のマスクをはずしたい」へ。タイトルも雄弁だけれど、曲調的にも、ミュージシャン冥利につきるであろうロックンロール。Bank Bandも楽し気な演奏を聴かせ、トドメは櫻井がKANのギターに蹴りを入れ、真っ二つに! こんなユーモアも、フェスには必要不可欠だ。最後は、KANと櫻井がふたりきりで、ひねくれ心やウィットやチャレンジ精神を感じさせる「弾かな語り」(弾き語りの真逆です)で、それぞれの持ち味を生かした、かつ息の合った歌声をたっぷりと聴かせて、エンディングを迎えた。
ここからは、生配信にはなかった、Mr.Childrenの追加ライブへ。花道から登場した4人は、『ap bank fes』ならではのリラックスした表情。桜井和寿の「戻ってきました!」という言葉と、JENが高々と掲げるピースサイン。そしてはじまったのは「彩り」。〈ただいま〉〈おかえり〉――桜井とメンバーが歌い合う温かな空気が、Mr.Childrenのバンド感を証明しているようで、たまらない。続いては、ライブの名場面を思い出さずにはいられない「HANABI」。画面に向かって多くの人が〈もう一回 もう一回〉と歌いかけたのではないだろうか。そして、美しいアコギの音色が響く「I’ll be」へ突入。気迫の歌と演奏からは、Mr.Childrenというバンドのメッセージ性や、この4人からしか生まれないグルーヴが、ひしひしと伝わってきた。ラストナンバーは、自然に囲まれたシチュエーションにぴったりな「口笛」。最後はメンバーが横一列に並び、一礼してステージを去った。