リアム・ギャラガー、自在な歌声でソロ活動の集大成へ 音楽性が格段に広がった3rdアルバム『C’mon You Know』徹底解説

リアム・ギャラガー『C’mon You Know』徹底解説

 ちなみに前述の「C’mon You Know」でサックスを吹いているのは、2000年代後半からインディーロックを追いかけていた人にとってはお馴染みであろう、今年の『FUJI ROCK FESTIVAL '22』でもヘッドライナーを務めるVampire Weekendのエズラ・クーニグだ。基本的には過去作から継続のメンバーによって構成された本作の制作体制だが、エズラはそこに新たな音楽性をもたらすキーパーソンと呼べる人物だろう。そして、リアム、エズラ、アンドリュー・ワイアットでソングライティングを務めた「Moscow Rules」は、リアムのトレードマークであるクラシックロック的な作風とは一線を画す、ゴシックな雰囲気すら感じさせるシアトリカルなチェンバーロックだ。Aメロのどこか悲壮感すら漂うエモーショナルなメロディからは、明確にVampire Weekendとの共通点を見出すことができるだろう。愛する人との別れによる孤独な生活を描いた本楽曲は、まさにリアムの脆さを全面的に出した楽曲であり、歌声から零れ落ちる寂しさが余韻となって、中盤に訪れる孤独と狂気が衝突するかのようなアバンギャルドな空間へと繋がっていく。音楽的にも、歌詞的にも、これまでの活動では絶対に有り得ない作風であり、それでいてその試みが完全に成功していることからも、今のリアムがいかに自由で、充実しているかを感じることができるはずだ。

 このように、本作は過去作を遥かに超えるサウンドの振り幅を持つ作品となっているわけだが、だからこそ、自身のルーツを全面に押し出した楽曲も、本作のリアムはさらに大胆かつ自由に鳴らしてみせる。ジョン・レノンの作風を彷彿とさせる「World’s In Need」は、ベースこそアコースティックギターを弾き鳴らすポップソングだが、ストリングスによる大胆なアレンジなどによってこれ以上ないほど瑞々しい仕上がりであり、今作屈指のパンキッシュな楽曲である「I’m Free」も合間にダブのブレイクを挟むことによって鮮烈な印象を与えている。その中でも、本作のクライマックス的位置づけにある「Better Days」は、完全にThe Beatlesの「Tomorrow Never Knows」的なドラムのフレーズを爆音で打ち鳴らしながら、前述のような様々な音楽的アイデアを臆することなく大量に投入し、圧倒的かつ極上のサイケデリアを爆発させる凄まじい楽曲だ。一方で、歌声を聴かせるところではしっかりと演奏を抑え、歌声と共に一気に空間を拡大させるような本楽曲のアレンジは、あくまでその起点がリアム・ギャラガーの歌声にあることを証明している。この尊大でありながら脆さも抱え、身近でありながら途轍もないスケールを表現できる歌声から引き出される世界こそ、本作が描こうとしたものだろう。全ての楽曲が自由で、意外性に溢れ、それでいて破綻することのない、見事な仕上がりを誇っている。これまでのアルバム2作が共に全英チャート1位を記録するなど、十分に成功していると言っても問題のないリアムのソロ活動だが、本作『C’mon You Know』は一つの集大成であると同時に、その先にある可能性を示しており、まだまだ新たな景色を見せてくれるだろうという期待をも感じさせる傑作だ。

Liam Gallagher - Better Days (Official Video)

 本作を聴くと「スタジアムを大合唱で埋め尽くす(Oasisのような)アンセムでこそ、リアム・ギャラガーの歌声が最も輝く」という過去の認識はもはや不要であり、その事実を本人も完全に理解していることが分かる。(筆者は大好きだったのだが)Beady Eyeの失敗を筆頭に、かつてはまさに「過去の人物」として扱われる場面もあったリアムだが、順調に評価を積み上げてきたソロ活動、そして本作のリリースによって、その復活劇は完全なものとなった。6月には、かつて自身のバンドによって伝説を打ち立てたUK・ネブワースパークでの2日間の公演を予定しているが、約16万枚ものチケットは、1日も経たないうちに完売している。

 たくさんの若者達に囲まれたリアムの姿が印象的な本作のアルバムジャケットは、昔の写真ではなく、2021年に開催された『Reading and Leeds Festivals』でヘッドライナーを務めた直後に現地で撮影されたものである。つまり、今のリアム・ギャラガーは、それこそOasisをリアルタイムでは知らないであろう若いファンをも魅了しているのだ。その事実こそがこの復活劇を象徴する、最大の証拠と言えるのではないだろうか。

 かつてソロ活動を開始したばかりの頃、約2万人を収容するロンドン・O2アリーナでのライブですら売り切れるかどうか不安に思っていた当時の彼の姿はもはやない。様々な紆余曲折を経験してきたリアムだが、遂に一人でここまで辿り着くことに成功したのだ。

『C’MON YOU KNOW』

■リリース情報1
リアム・ギャラガー『C’MON YOU KNOW』
2022年5月27日(金)発売 ¥2,860(税込)
<収録曲>
M-1 More Power
M-2 Diamond In the Dark
M-3 Don’t Go Halfway
M-4 C’mon You Know
M-5 Too Good For Giving Up
M-6 It Was Not Meant To Be
M-7 Everything’s Electric
M-8 World’s In Need
M-9 Moscow Rules
M-10 I’m Free
M-11 Better Days
M-12 Oh Sweet Children
M-13 The Joker
M-14 Wave
M-15 Too Good For Giving Up (Alternate Version)(* BONUS TRACK)

『Down By The River Thames』

■リリース情報2
リアム・ギャラガー『Down By The River Thames』
2022年5月27日(金)発売 ¥2,750(税込)
※初回限定紙ジャケット仕様盤
<収録曲>
M-1 Hello
M-2 Wall of Glass
M-3 Halo
M-4 Shockwave
M-5 Columbia
M-6 Fade Away
M-7 Why Me? Why Not.
M-8 Greedy Soul
M-9 The River
M-10 Once
M-11 Morning Glory
M-12 Cigarettes & Alcohol
M-13 Headshrinker
M-14 Supersonic
M-15 Champagne Supernova
M-16 All You’re Dreaming Of

2作同時購入で特典(トートバッグ)付属
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※数に限りがございます

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