怒髪天・増子直純×真田ナオキ対談 「やっぱり大事なのはユーモアだよ」――演歌とロックと声を語り合う!

ロックバンド・怒髪天と演歌歌手・真田ナオキのコラボレーションが実現した。4月2日にリリースされた真田の最新シングル『Nina』のJD盤に収録されるカップリング曲「一匹狼のブルーズ」は、作詞を増子直純、作曲を上原子友康が手掛けている。リスナーの心を一瞬で奪う野趣と哀愁に満ちた真田の歌声は“ノックアウトボイス”と称されているが、この魅力が最大限に発揮された曲だ。コラボレーションが実現した経緯からそれぞれの歌唱スタイル、4月23日にリリースされる怒髪天のアルバム『残心』についてまで、真田と増子に語り合ってもらった。(田中大)
出会いと共通点、「一匹狼のブルーズ」の新鮮さと感動

――増子さんと上原子さんのチームが真田さんに楽曲提供をすることになった経緯からお聞かせください。
増子直純(以下、増子):去年か一昨年ぐらいかな? バンドの友達から「すごくいい声の演歌歌手がいるんだけど、絶対好きだよ」と言われて、調べてみたら「同じテイチクじゃないか!」と(笑)。「楽曲提供したい!」「この声と経歴に合う曲を作りたい!」と思って、吉(幾三)さんが作る素晴らしい曲と並んでアルバムのなかにも入れられるような曲を作りたいと、うちのギター(上原子友康)とも話していたんです。
――真田さんは、師匠の吉さんが手掛けられた曲以外のオリジナルは初めてですか?
真田ナオキ(以下、真田):初めてです。「歌えなかったらどうしよう?」という不安もあったんですけど、めちゃくちゃ歌いやすくて、新鮮さがあって、楽しかったです。
増子:当たり前なんだけど、恐ろしく歌が上手くて。レコーディングに立ち会って、友康と「すげえな!」って話してました。イメージしていたもの以上にちゃんと表現として歌ってくれてたから、感動しちゃったもんね。
真田:嬉しいです! レコーディングの時に「いいよ!」って増子さんたちに言っていただいたので、自信を持って歌うことができました。
――怒髪天の曲、増子さんの歌について、真田さんはどのように感じていますか?
真田:好きな歌い方です。もともとロックっぽい曲が大好きなんですよ。僕は自分で声を潰してこの声になったんですけど、思い描いていた理想は德永英明さんのようなウィスパーボイスでした。声を潰し始めたら砂利みたいな声になっちゃって(笑)。
増子:俺も声が大概ガラガラだからね。川中美幸さんに「喉、大丈夫?」って言われて、のど飴貰ったことあるから(笑)。
真田:僕も似たような経験があります(笑)。初めてご一緒した先輩方は、必ず「喉に気をつけてね」と言ってくださるので。
若手演歌歌手が胸に秘める想い「なんで演歌だけ離れた位置に?」

――「一匹狼のブルーズ」を作るにあたって、上原子さんとどのようなことを話し合いました?
増子:イメージが固まっていたので、すぐにできあがったんです。歌番組に出た時に一発刺せる、ちょっと毒のあるものというか。昭和の不良性を感じられるものが絶対に合うと思ったから、そこを目指して作ったんだよね。
真田:〈派手に飾られたメロディに乗せた/甘ったるい歌街を染めている〉〈こんな時代にはぐれ漂い/今夜も独り泣いてるアナタに〉が、ものすごく刺さりました。常に思っていることといいますか。演歌歌謡もそうですし、かっこいい歌/いい歌はたくさんあるけれど、街で流れてる歌とはちょっと違うんですよね。
増子:ソフトで耳当たりのいいものが多いからね。
真田:そうなんですよ。「めちゃくちゃかっこいい歌がいっぱいあるのにな」という自分のなかのフラストレーションみたいなものが、この歌詞には全部乗っかっています。
増子:2番の〈やってられないよ〉は、「真田くんのあの声で言ってほしいな」と思って書いたんだよね。「一匹狼のブルーズ」は、怒髪天で歌っても違和感がないと思うし、同じ男として歌って恥ずかしくない曲を作ろうというのがあったので、自分がいつも歌ってる曲と変わらないです。
――演歌やロックも含めたあらゆる音楽は、「リスナーの心を震わす」という点では根本的には同じですよね。昭和の頃はあらゆるジャンルの人たちが同じ番組で歌っていて、リスナーの大半もそれが自然だと思っていましたから。
増子:そうそう。『ザ・ベストテン』を観ていた我々の世代は、演歌歌手もベスト10に入ってるのを観てたから。山本譲二さんや前川清さんとかも出てたんだから!
真田:今考えると、すごいことですよね。
増子:アイドル、演歌歌手、何から何までが一緒に出てたんだよね。
真田:それは今の若手演歌歌手が胸に秘めてる想いですね。「同じ音楽なのに、なんで演歌だけかなり離れた位置に置かれているんだろう?」って。
増子:もったいないよね。
真田:だから、こうして「一匹狼のブルーズ」を歌わせていただくのは嬉しい限りです!
――怒髪天はJAPANESE R&E(リズム&演歌)を独自のスタイルとして掲げていますよね。
増子:うん。小学生の頃から演歌を歌番組とかで聴いてきて、身体に入ってるからね。世界中のパンクとかロックを聴いても、自分たちの国の土着的なものと合わさってオリジナルが生まれてることがわかるんだよ。でも、日本は演歌的なものを排除するところから始まっちゃったから、「それじゃおかしい」「そのままだと世界で戦えるものを作れないんじゃないか?」と思って、演歌を概念として見直して「血に流れてるものを意識しよう」と俺らは考えたんだよね。たとえば、The Poguesだって向こうで言えば民謡なんだから。
――The Poguesは、アイリッシュフォークの要素が色濃いですからね。
増子:アイルランドの民謡とロックが合わさってるんだもんね。そういうのは本来、誰の心にもあるはず。「R&Eの演歌的部分って何ですか?」と聞かれたらいつも言うんだけど、日本人の共通の感覚としての「失恋したら北に行く」みたいなこともそうなんじゃないかなあ。だって、失恋したら南には行かないでしょ?
真田:たしかにそうですね。
増子:日本海の荒波を眺めたりさ、そういうことなの。日本人の共通認識みたいなものが、演歌にはあるんだよね。
真田:演歌にしかない歌い方ってあるじゃないですか。それを恥ずかしがる演歌歌手もいるんですけど、こぶしの入るポップスって「上手すぎてウケる!」みたいな面白さがあると思います。演歌にしかない歌い方って、少なからず僕にも流れているので。それをいい形でいろいろな音楽として表していけたらいいなと思っています。
増子:真田くんは、いろんなジャンルを歌えると思う。
吉さんの作る曲は、本当にすごいよ。聴いたら忘れないからね(増子)

――それこそ、吉さんの「俺ら東京さ行ぐだ」は“日本のポップス史上初のラップ”だと言われていますよね。
真田:師匠はHIPHOPだと言ってますけど、全然HIPHOPのことをわかってないと思います(笑)。
増子:でも、そこがいいんだよね(笑)。
真田:「俺はラッパーだから」って最近も言ってました。
――(笑)。「なんとなくこんな感じかな?」と自分なりに取り組むことで、新鮮な何かが生まれることもありますよね。
増子:本当にそう。俺もリズムの取り方が演歌とか音頭と同じで、前なの。後ろでリズムを取れない。洋楽的な曲を作っても前で拍を取って歌うから、どうやっても日本的なものになっちゃうんだよね。レゲエっぽい曲も、河内音頭みたいになっちゃう(笑)。昔はそういうのを「なんで?」と思ってたけど、それでいいんだよね。それって、ほかにないものなんだから。
真田:僕は師匠に作っていただいた歌を多く歌わせていただいていますけど、変な歌が多くて。それこそ「恵比寿」の〈惚れちまったの俺〉もそうですし、前作の「246」もどこか変で。でも、それを「面白いね」と言ってくださる方が多くて。
増子:吉さんの作る曲は、本当にすごいよ。言葉とメロディのフックがものすごくて、聴いたら忘れないからね。
真田:師匠もどこか洋楽っぽい音作りをするんですけど、リズムを前で取るから日本風になるんですよね。「一匹狼のブルーズ」が歌いやすいのもそういうことなんだなと思いました。
増子:「一匹狼のブルーズ」は、ドラマが見えるようなものにしたいというのもあったんだよね。真田くんの声にすごく合ってると思う。