映画『リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ』で描かれる、稀代のシンガーの再生 音楽で掴んだ“自分自身の在り処”とは

 「リアム・ギャラガー、兄ノエルにOasisの再結成をSNSで打診」ーーそんなニュースが入ってきたのは、今年の3月のことだった。コロナ禍を受けて開催される、医療従事者のためのチャリティイベントに、一度きりでいいからOasisとして出よう、とリアムが呼びかけたことに、世界中のファンが色めき立った。だが、それはほどなくして「ノエルなしでも再結成する」という一方的かつ不穏な“宣言”となり、ついにはイベント自体が翌春に順延になったことで、再びうやむやになってしまいそうな模様だ。

 Oasisが解散してから10年以上の歳月が経つ。これまでにも幾度か再結成話は立ち上ったけれど、それらはいずれもリアムが「やってもいい」と公言したのをノエルが即座に否定して終わっている。

 そこには「Oasisに未練がある弟と、もうやりたくない兄」という図式が見えていたが、映画『リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ』を観たら、誰しもが「今回ばかりはこれまでとは事情が違いそうだ」と感じることだろう。

映画『リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ』予告編
リアム・ギャラガー『As You Were』

 音楽ドキュメンタリーを数多く手がけてきたチャーリー・ライトニング、ギャビン・フィッツジェラルド監督によるこの映画、思い切り平たく言うと、「堕ちたスターの再生の物語」だ。Oasisという金看板を突然外されたリアムが、現状に適応できずに自暴自棄になり、アイデンティティクライシスに陥っていく。映画はそこに至る「原因」となったノエルとの確執を中心に、リアムの低迷期から『As You Were』(2017年)で名実ともに復活するまでの過程を丁寧に追っている。

 映画はリアム本人の語りと、彼とゆかりの深い人物へのインタビュー、バンドの記録映像などを挟みながら進んでゆくのだが、中には出演直前でキャンセルになり、ノエル脱退の決定打となった2009年8月のパリ公演の様子も。「今夜のライブはノエルとリアムが喧嘩したため急遽キャンセルします」というアナウンスに騒然となる会場。その時は2人の兄であるポール・ギャラガーでさえ「これぐらいのケンカで……」と思っていたそうだし、誰もが「所詮は血の繋がった兄弟なのだから、ほとぼりが冷めたら仲直りするはずだ」と信じていたが、あれから今に至るもOasisの再結成は実現していない。それどころか、解散以降ノエルとリアムの2人は顔さえ合わせておらず、お互いを非難し合うのもメディアを介してだ。

 その後リアムは残ったメンバーとBeady Eyeとして再起をはかるのだが、5年でバンドは空中分解してしまう。そこへ自身の離婚問題も重なって、公私ともに八方塞がりに。次第に酒やドラッグに逃げるようになっていく。一時期やたらとTwitterを更新していたが、それも不安にもとづく行動だったようだ。

Beady Eye – The Roller
Beady Eye – Four Letter Word

 人生のどん底に迷い込んだリアムだが、失意の彼を救ったのはやはり音楽だった。映画には再起のきっかけとなったアイルランドのパブでの弾き語りシーンや、憧れた続けたThe Beatlesの牙城、アビー・ロード・スタジオでのレコーディングの様子も収められている。いずれも音楽を通して自分自身を見つめ直す彼の姿が伝わってきて、胸が熱くなる。

 また、マンチェスターの実家にリアムが里帰りする様子も描かれているが、子供部屋を眺めながら幼少時の思い出を語ると、自然にノエルの話が出てくるのが微笑ましい。「Oasisの解散にはまだ怒っている」と語っていたリアムだが、とっくに許しているように思えるのは気のせいではないだろう。

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