「あくにゃんのヲタク保健室」特別編
あくにゃん×田中絵里菜が考える、日韓アイドルの違いとそれぞれの面白さ
「推しが多すぎて毎日忙しい!」「どうしたら推しが喜んでくれるの?」など、ヲタクの悩みは尽きないもの。“プロのヲタク”あくにゃんが、そんなヲタクたちのお悩みに答える連載企画「あくにゃんのヲタク保健室」。今回は特別編として、書籍『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』著者・田中絵里菜氏を迎えて対談を行った。日韓のアイドルを追うあくにゃんとK-POPシーンの状況に詳しい田中氏。双方の視点から日韓アイドル文化やファンの違い、それぞれの魅力について熱く語り合った模様をお届けする。(編集部)
SNSの使い方、ライブ、音楽番組……日韓アイドル文化の違い
――今回の対談は、あくにゃんさんからの提案もあって実現しました。お二人がお互いを知ったきっかけは何だったのでしょう?
あくにゃん:池袋のジュンク堂書店本店に、K-POPコーナーがあって、いくつか読み比べたんです。特定のグループや音楽性にフォーカスしているものが多かったんですけど、僕はどちらかというとファンダムに興味があるので、コミュニティ形成に深く言及されているなと思って、田中さんの本(『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』)を手に取りました。
田中:私は前から存じ上げていたんです。実は以前、あくにゃんさんファンの友人から「この人、K-POPも好きなんだよ」と教えてもらって、頭に残っていて。ジャニーズファンとしてテレビに出られているのも拝見していました。なので、YouTubeで私の本を紹介されていたのは驚きました。
あくにゃん:うれしい!
田中:この本を書く時、私がK-POPしか知らなくて比較対象がないから、それが本当にK-POP特有のことなのかどうかを調べるのが大変で。宝塚とか、ジャニーズ、LDHといった、他の分野のファンの人に、客観的に何がK-POPで驚きだと思うのかという話を聞いていましたが、あくにゃんさんのように冷静に全部を見渡せたり、幅広い知識を持っている人はなかなかいない存在だなと思いました。
あくにゃん:僕のYouTubeチャンネルはコンテンツとして日韓アイドルの比率が半々ぐらいなんですけど、本当は特定のジャンルに特化していたほうが登録者数などは伸びるんですよね。でも両方の架け橋になりたいという思いもあって、どちらも取り上げているんです。
――お二人が韓国やK-POPに興味を持ったきっかけは?
あくにゃん:僕は2012年ごろ。初めてちゃんと応援したのが、BOYFRIEND(現BF)でした。それまでは、親が東方神起を毎日聴いているとかはあったんですけど、自分の推しとしてはBOYFRIENDが初めてで。めちゃくちゃ人気だったので、初来日公演では武道館1日4回公演、しかもアルバムを持っていたら無料で入れる、という面白い施策をやっていました。メイクが濃かったり、筋肉隆々なグループが多い中、グループが主流だった中で、王道でかわいらしい雰囲気の彼らが日本に進出してきて、ハマったという感じです。だから、いわゆるK-POP的な感じというよりかは、日本のアイドルの延長線上として見ている感が最初はありました。
田中:私の場合は、韓国で2009年ごろ、Wonder Girlsの「Tell Me」の大ブームが起きていた時に、友達が「韓国は今こういうのが流行っているらしい」とYouTubeのリンクを送ってくれたのを見たんです。私は『冬ソナ(冬のソナタ)』のヨン様とか、韓流ドラマのイメージで止まっていて、韓国の音楽に触れたことがなかったので、こういうおしゃれなことをやっている人たちがいるんだなということを知って。並行して、ちょうど2NE1がデビューしたり、その先輩にBIGBANGがいたりというK-POPシーンの全体がだんだん見えてきたんです。翌年くらいにK-POPブームが起きて、少女時代やKARAが人気になって一気に広がったので、いろいろなものを同時に応援するようになりました。私はそれまであまりアイドルにハマったことがなくて。高校生のときにドラマの『花男(花より男子)』が放送されていたり、嵐が流行っていて、ライブには行かないけど、ぼんやりみんなで見ているみたいな感じでしたね。
――日韓アイドルの違いはどんなところにあると思いますか?
あくにゃん:K-POPが世界的に広まった理由の1つに、肖像権のグレーゾーンが広いというのがあるなと思って。例えばジャニーズだと、無料で公開されている動画のスクショを上げて、出典にしたYouTubeのリンクをつけたとしても、「消してください」とファンの方からコメントが来ることもあります。あとは、Instagramを開設するグループも少なく、SNS進出や無料コンテンツの投稿には慎重な印象を受けています。
田中:確かに、そういう面でネット上で広がっていった側面はありますよね。ちなみに、ジャニーズがYouTubeを始めたのはファンとしてはどういう印象でしたか?
あくにゃん:見られて良かったと言う人が多いですが、中には「私服を見たくなかった」とか「TikTokで流行っている振り付けをやらないで欲しい」という意見もあります。人間味とか、今の若者感が出るのが嫌みたいなんです。
田中:その辺はK-POPグループと違うかもしれません。彼らは「プライベートを出してなんぼ」みたいな感じだから、宿舎や私服も全部見せちゃいます。みんなそれを欲しがっていますし。だから、日本の方がちゃんと“アイドル然”としていますね。ですよね。私が日本のアイドル文化で私が「なんだろう?」と思ったのが、Twitterのトレンドで、「#〇〇Instagram」とジャニーズでインスタをやっている人のハッシュタグが入っていて、投稿を見たらインスタであげた写真に対するコメントをしていたんです。転載しちゃいけないからかなと思ったんですけど。インスタについてのコメントをインスタのコメント欄ではなく、Twitterに書いているのが新鮮で気になっていたんです。
あくにゃん:写真が使えないから出典的な感じでつけているんだと思いますけど、やっぱりトレンド入りさせることに執着がある人が多くて。ラジオでも「このハッシュタグをつけてツイートしてね」と言って、それでそのハッシュタグがトレンド入りしたら「おめでとう!」みたいな文化はありますね。
田中:あとは感想をTwitterに書くことで、「インスタを見に行ってね」ということですよね。ハッシュタグ運動が日本でも広がっているという感じなんでしょうか。
あくにゃん:コミュニケーションの一環というのもありますかね。売り出すためとか、世界的にPRするためという以上に、ファン同士の共通の目次というか、「これについての会話です」ということを分からせるような。あとはそれをきっかけに、相互フォローが始まったりする、パスポート的なものかもしれません。
田中:なるほど。韓国のランキングの構成については本にも詳しく書いたんですけど、ハッシュタグやグループ名が何回ネット上に上がったかが、音楽番組のランキングに関わるので、その数字を伸ばすという意味でやっていることが多いです。これは国内グループと一緒かもしれませんが、誕生日の時に「#〇〇生誕祭」で盛り上げるというのもやっています。
あくにゃん:僕は、K-POPだけなのかはわからないですけど、アイドルに脱退を要求するアウトタグ運動がちょっと独特だなと思います。日本人のツイートだと「同意します」と投稿している人はあまりいなくて、「なんでこんなハッシュタグつけるの?」とこの文化自体に批判的なツイートをしている人が多くて。
田中:韓国のK-POPファンは、プロデューサー気質の人が多いのかもしれません。好きだという気持ちもあるけど、自分たちが支えてここまで1位にしてきたという意識があるからこそ、例えば熱愛報道があったときに、ショックという以上に、手塩にかけて育ててきたグループのスキャンダルが許せないという思いがあって。「プロ意識が足りない」という目線で見ている人も多いから、アウトタグが出たり、脱退させて残りの子たちを成功させようという意識があるなと感じます。
あくにゃん:1位にかける思いがすごいですよね。1位になっても笑顔がワイプで抜かれて終わる日本の音楽番組と、紙吹雪が舞う中大泣きする韓国の音楽番組みたいな対比も見たことがあります。どちらがいいとかではないと思うんですけど、それぞれのやり方が根付いていますよね。
田中:デビューして何年も経っているのに、まだ1位をとっていないと、ファンも必死になります。そこは「兵役」との兼ね合いがあってアイドルが刹那的に捉えられているという側面があるというのを本でも取り上げたんですけど。なので、より本人たちも「悲願の」みたいな感じで。その1位をどうやってとるかというと、先ほども少し言いましたが、CDの売上だけではなくてストリーミングやSNSのハッシュタグとかも入るので、ファンダムの力がどんどん強くなっていて。中国では規制され始めていますが、本当に応援合戦みたいな感じですよね。
あくにゃん:韓国の音楽番組は、普通にランキングを発表しないじゃないですか。「1位はどっちだ?」みたいな対決形式で、1位と1位じゃない方、という描き方をしたり。1位がその場にいなくて番組がぬるっとして終わるみたいな時もあったり(笑)。紙吹雪が舞うのも、明らかに勝ち負けを意識した演出になっているな、と。それはファンも頑張りますよね。
田中:ジャニーズではそういうことはないんですか?
あくにゃん:CDショップでループして買い続けて、完売したら拍手みたいなのはあります。言ってしまえば、ジャニーズはCDを出せば多くの場合は1位を取れる実力とファンの熱量や愛がありますので、事務所内の争いの方が強いなと思っていて。ファンクラブの会員数のランキングを見て「〇〇が多い/少ない」とか。それこそ、後輩に会員数を抜かれたとか、うちのグループは『紅白』に出られてないとか、冠番組が地上波なのか、ネットなのかとか、他のユニットと比べてしまうことで一喜一憂するというのはありますね。
田中:単純に売上だけじゃないという感じですね。ジャニーズだと、デビューした時からアリーナのような大きい会場でライブをやることもありますもんね。
本を書いた時に日本のアイドルを追っている人に話を聞いて、面白いなと思ったことがあったんです。韓国は、ライブの時は全員で同じスローガンを持って、全員で掛け声を合わせて……ファンダムの連結感をあらわすための団体芸で自分が目立とうとすることはない。そもそもパフォーマンスを見に来ているのでそれを盛り上げるのが主な目的。一方でその人が、ジャニーズの場合は、本人とコミュニケーションが取れるタイミングがライブしかないから、友人とみんなでお揃いコーデをして客席で少しでも目立とうとしたり、うちわでアピールしたり、どちらかというより「個」にフォーカスしたヲタ活が多い、と言っていました。現場のコミュニケーションの取り方が違うんだなと思ったんですよね。
あくにゃん:確かにそれはあるかも。韓国の方が、掛け声がワントーン低いとか言いますよね(笑)。日本だと可愛く掛け声を出したい。それは“推しのため”でもありつつ、可愛くいたいというのもあるのかなと。ペンライトの振り方も可愛い、可愛くないとかあるんですよ。
田中:K-POPのライブはモッシュみたいなことも起きちゃうし、もうぐちゃぐちゃ。だから、ライブに可愛い格好をしていくというのは新鮮です。オソロコーデとかも“覚えてもらう”みたいな意識があるのかなと思いました。
あくにゃん:韓国の音楽番組の観覧に行った時も、日本の子はおしゃれなアウターで来るから、マイナス13度の中、凍え死にそうになりながら待っていたり(笑)。おしゃれをして行く、その場を楽しむみたいな意識はあるかも。
田中:韓国はみんなジャージにリュックみたいな、とにかく身軽な行動で、全力で応援するみたいな感じです。
あくにゃん:逆に、日本はそうやって必死になってるのはちょっと“ダサイ”みたいな空気で。出待ちでもみんな必死に走っている中、1人だけスマホ片手にゆっくりしてる、みたいなさらっとしているのがかっこいいと言われるんです。可愛くヲタクをしたいというのはちょっとありますよね。
田中:結局は自分が好きなポイントにハマるかどうかだから、日本と韓国のアイドルで良し悪しは別にないと思っているんですが、日本のアイドルはライブでコミュニケーションをとるのがうまい印象です。K-POPのライブはどちらかというと、ダンスをいかに揃えるかとか、完璧なパフォーマンスを見せることを重視していて。日本のアイドルは“ファンサ”をしたり、ファンの人にその時だけの思い出をあげようみたいな意識が大きいような気がします。
あくにゃん:ジャニーズの場合、人によっては片手で踊りながら、もう片方の手でファンサをしている人もいます。“ファンサマシーン”と呼ばれるアイドルがいたり、“ファンサ曲”と呼ばれるものもあったりとファンサにも重きを置いています。
田中:すごい! ファンの人も見られるという意識があるからおしゃれをしていくんでしょうね。時にはフリがズレても、その人らしさを出すのも大事な要素だと思います。