広島発3ピース the奥歯's、パンクで叫ぶ等身大の“優しさと弱さ” THE BLUE HEARTSや銀杏BOYZから受けた衝撃も

the奥歯's、パンクで叫ぶ優しさと弱さ

 広島出身の3ピースバンド the奥歯'sが4月2日に2ndアルバム『光のハミング』をリリースする。アサベシュント(Gt/Vo)のしゃがれた歌声、その兄・アサベハルマ(Ba/Vo)とジン(Dr/Cho)が奏でる直球にして力強いリズム。そのアンサンブルからは、どうにもならない不自由な世の中で、それでも消えない愛や希望を信じるシュントの不器用ながらも真っ直ぐな想いを、ハルマとジンが心から信じて奏でている感覚が手に取るように伝わってくる。スケールの大きな歌で大切なメッセージを届ける「デスキス」や「ハニーハニー」から、赤裸々に自分たち自身を歌ったガレージパンク「スパイキーハート」まで。ピュアな言葉選びと口ずさみたくなるメロディラインが、パンクの次なる未来を明るく照らしている。5月には初のワンマンライブを控える若き才能・the奥歯'sの3人にインタビューを行った。(編集部)

YouTubeやテレビで出会ったパンクバンドの衝撃

――the奥歯'sって個性的なバンド名ですよね。

アサベシュント(以下、シュント):高校生の時にバンドを始めたんですけど、「真面目なバンド名つけるのダサいな」と思っちゃって。変えるタイミングがないまま、ここまでズルズル来ちゃいました。

アサベハルマ(以下、ハルマ): 今のレーベルの社長から「本当にこのバンド名で行くの?」ってめっちゃ聞かれたんですよ。

シュント:心配してくれたよね。でも、じゃあどうすればいいんですか? っていう(笑)。まあ、覚えやすい名前だからいいのかな。

――では、結成のいきさつを教えてください。シュントさんが高校生の時に始めたという話でしたね。

シュント:はい。お父さんの部屋にアコギがあったので、「モテるかな」と思って中2から弾き始めたんですよ。中3の頃には結構自由に弾けるようになっていたので、そこから曲も書くようになって。授業中はやることがないので、作曲か落書きか、みたいな感じでした。

ハルマ:授業中はやること十分あるだろ(笑)。だけどシュントが進学した高校には軽音部がなくて。サッカーで出会った同級生の子と「だったら一緒にバンドをやろうよ」って話になったんだよね?

シュント:そうそう。ジンとは、その友達経由で知り合って。

ジン:はい。もともとは“友達の友達”でした。

ハルマ:最初のメンバーはシュントと友達とジンの3人で、地元の公民館とかでライブをやってたんですよ。だけどあるタイミングでその友達が「スケボーやりたいから」という理由で抜けちゃって。そこで「兄貴入ってよ」と僕に声がかかったんですよね。最初は僕がピンボーカルで、シュントはギター、ジンはドラムでした。ベースはサポートで入ってもらってたんですけど、その子もすぐに抜けちゃって。「じゃあ俺がやるか」ということで、今の形になりました。

the奥歯's - おやすみせかい - Music Video
the奥歯's - 鈴鳴メモリーズ - Music Video

――そもそもシュントさんは、どういう経緯で「バンドやりたいな」と思うようになったんですか?

シュント:もともと親が長渕剛が好きで、家とかでよく流れてたんですよ。 だけど思春期特有の「親と同じ音楽を聴くの、なんか嫌だな」っていう時期があるじゃないですか。違う音楽を好きになりたいなと思っていた時に、『フリースタイルダンジョン』を観て、まずラッパーにハマって。そこからTHE BLUE HEARTSやNirvanaに行ったんですよね。THE BLUE HEARTSの動画は、YouTubeで「NHKで放送事故」みたいなタイトルだったから、最初は「衝撃動画なのかな?」と思ったんですよ。観てみたら、(甲本)ヒロトが変な顔でバーッと歌ってて。「何だこれ?」と思いつつ、何回も、次の日も観ちゃって。気づいたらハマってましたね。THE BLUE HEARTSの動画を観た時、「これなら長渕に勝てる」ってグッときました。

ハルマ:長渕が敵だったんじゃなくて、親がずっと敵だったんだよな?

シュント:そう。今は長渕もTHE BLUE HEARTSもすごいなって思うけど。THE BLUE HEARTSの動画を観て、元気いっぱいでやれば上手くいくんだろうなと思ってバンドを始めたんですよ。だけど、ちょっと遠かったです……。ヒロトがやってたことってすごいことだったんだなと、実際にバンドを始めてみてわかりました。

アサベシュント

――ハルマさんとジンさんも、THE BLUE HEARTSをはじめとしたパンク系のバンドがもともと好きだったんですか?

ハルマ:たぶんシュントよりも僕の方が先にバンドを聴くようになったんですよ。中2くらいの時に『君の名は。』が流行ってたので、RADWIMPSとかを聴いてて。いわゆるパンクバンドに出会ったのは、『しゃべくり007』(日本テレビ系)に峯田(和伸)が出てたのを観た時でした。番組の中で峯田が、石原さとみとキスをしたっていう話をしてて。

――ああ、ドラマ『高嶺の花』(日本テレビ系)に出演されてたから。

ハルマ:それで、「こんなヤツが石原さとみとキスできるのか!?」と思ったんですよ。

シュント:まず「誰だ?」ってなるよね。

ハルマ:そう。調べたら、銀杏BOYZというバンドをやってる人だと出てきて。ちょうどその頃、シュントも銀杏BOYZを聴き始めていたから、僕も一緒に聴き始めて、「これが銀杏BOYZか。カッコいいな!」と思って。シュントがバンドに誘ってくれた時、「やりたい」と思えたのは、あの時『しゃべくり007』を観たからかもしれないです。銀杏BOYZに出会って以来、ライブがカッコいいバンドが好きになったし、自分たちもそういうバンドでいたいなと思ってます。

アサベハルマ

ジン:さっきシュントが「親への対抗心からTHE BLUE HEARTSを聴くようになった」と言ってましたけど、僕も同じような感覚でドラムを始めたんです。「両親や姉がやってこなかったことって何だろう?」「あっ、ドラムだ」というふうに。だから「バンドやりたい」より「ドラムやりたい」という気持ちが先にあったんですけど、父親がTHE BLUE HEARTSをよく聴いてたのもあって、パンクロックは自分にもスッと入ってきて。シュントの書く曲も「いいね」って感じで一緒に楽しくできましたね。

兄弟・友達で組んだ3人ならではのバランス

――「スパイキーハート」に〈小心者が1人/せっかちな兄が1人/根暗な友が1人〉という歌詞がありますが、これはみなさんのことですよね。

シュント:歌詞は僕が書いてるんですけど、そうですね、はい。

ハルマ:いや、せっかちって言われても。お前が寝ぼけてるだけじゃねえの?

ジン:僕はお母さんに心配されました。「〈根暗〉って歌われてたけど、大丈夫?」って(笑)。

シュント:そこまで考えられてなかった。お母さんにごめんって言っといて!

――バンドのバランス的には、兄のハルマさんが弟のシュントさんを引っ張って、ジンさんも含めて3人で楽しくやっている、という感じなんですかね。

ハルマ:どうなんですかね? ライブに関しては、僕がセットリストを決めて、ジンとコミュニケーションを取りながら進めているけど、シュントが暴れ過ぎちゃうからセットリスト通りにはいかない、ってことが多いです。最初の頃はシュントにセットリストを決めるのも任せてたけど、2人がついていくだけのバンドになっちゃうから、全体の流れはハナからこっちで決めることにしたんですよ。それでもシュントは壊しにくるから、僕とジンはライブ中に「あいつ今何やってんの?」「じゃあこうしようか」って会話をしながら対策してます。僕は兄弟だからなのか「シュントはこういうことがやりたいんだな」ってなんとなくわかるんです。だけどジンはついてこられないことがあって。

ジン:最初の頃はただ戸惑うだけでしたね。「なんでそんなに暴れるんだ?」って。だけど最近はもう「自由にやってくれ」という感じ。

ジン

ハルマ:さすがに暴れすぎだろって思う日もありますけど(笑)、同じバンドのメンバーとしてシュントはやっぱりすごいなと思います。シュントは“KY”なんですよ。場の空気を壊すのが好きというか。

シュント:KYって“空気読めない”だよね? だったら、KYだと思います。何人かで作っていく会話がめっちゃ苦手なんですよ。今こうして取材してもらってても「ちょっと変な喋り方になっちゃってるな」と思うし、打ち上げとかも苦手。一対一だったらいいんですけど、集団だと「この会話の中で自分はどの役割をやったらいいんだ?」と思って、あっちこっちに行っちゃうんです。

――そういうシュントさんの性格は「スパイキーハート」の〈ねぇねぇずっと汚い箱で/でっかい音を鳴らしてみても/後には引けない気まずい感じで/どうにかなっちゃうよ〉という歌詞に表れている気がします。ワガママに振る舞えず、「本当に大丈夫かな?」と考えてしまいがちというか。

シュント:ライブ中はそんなこと思ってないですけどね。

――ライブ中「は」?

シュント:お風呂とか、一人になった時に「あの言葉、言わんかったらよかった……」と思うことは多いです。

――今回のアルバムには、そういう人の歌が詰まっているなと思いましたよ。お風呂で反省会を開いてしまいがちだけど、ステージでは誰よりもハジけられるロックスターの歌。

シュント:恥ずかしい(笑)。ライブだったらギター&ボーカルというお仕事があって、そこに賭けられるのがいいのかもしれないです。セトリを兄ちゃんが決めてくれているのもありがたい。「この曲をやってね」という範囲の中でやりたいことが自由にできるので。

ハルマ:シュントがふざけると、お客さんも一緒になってふざけてくれるので。そうやってふざけながらライブをするのが、俺たちにとっては楽しいんです。

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