米津玄師×羽生結弦「BOW AND ARROW」対談から見るアーティスト&アスリートの価値観、相反性と近似性
TVアニメ『メダリスト』(テレビ朝日系)のオープニング主題歌として、1月27日に配信開始となった米津玄師「BOW AND ARROW」。タイアップ決定時から米津自身の原作愛が大きな話題を呼んだり、ちょうど同時期に開催された全国ツアー『米津玄師 2025 TOUR / JUNK』では早速のお披露目があったりと、昨年末から話題に事欠かず人々の注目を集める楽曲ともなっている。
また、大勢のリスナーが曲の動向を見守っていたのは、MVの存在も理由のひとつなのだろう。同時期リリースの「Plazma」も、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』の内容を彷彿とさせる大スケールのMVであった点、重ねて「BOW AND ARROW」はやや時間差のある情報解禁となった点も相まって、本曲でどのような世界観の映像が展開されるのか、心待ちにしていたファンも多かったに違いない。
期待が高まる中、満を持して3月初旬に公開された楽曲MV。そこには氷上を舞台に歌唱する米津の姿のみならず、楽曲に合わせて華麗なプログラムを披露するフィギュアスケーター・羽生結弦の姿があった。楽曲の性質上、作品が題材とするフィギュアスケートでの演目としてもいつか使われるのではと噂されていた本楽曲。結果として大衆の予想を遥かに上回る国内最高峰の人選でのパフォーマンスが実現したのだ。最高潮に高まっていた人々の期待のさらに上を行くMV作品となったことも、数多のリスナーを喜ばせた要因のひとつとなる。
今の日本の音楽シーンにおけるトップアーティストと日本フィギュアスケート界の至宝という、ジャンルの垣根を越えた同世代の豪華共演。世界的快挙を成し遂げてきた羽生ですら現役時代以上の力量を必要としたという、最高難易度の作品愛に満ちた演目構成。そして“弓矢”の名を冠する楽曲と“弓の弦を結ぶ”者という数奇な因果など、今回のMV共演は米津と羽生双方にとっても意義深く、簡単には語り尽くせぬ魅力にあふれたコラボレーションになったと言えるだろう。
そのような状況下ゆえに、以前からたびたび米津がゲストを招く形で行われてきた楽曲対談企画を希望する声も各所で散見されていた。その期待に応えるように、MV公開からおよそ1週間後に米津と羽生の対談動画と、あわせて羽生のショートプログラムMVも公開。後者に関しては天才スケーター・羽生結弦の今を映すパフォーマンス資料としての稀少性も重なり、動画は公開からわずか3日でYouTube200万回再生を記録。オリンピック2連覇の偉業から約7年――30代を迎えてもなおソリッドに進化し続ける彼の傑物ぶりを、存分に実感できる映像ともなっている。
今回のMVに関する数多の話題性を踏まえた上で、改めて貴重な対談動画についても見ていこう。互いの印象や作品『メダリスト』への理解と共感、フィギュアスケートという競技について、そして各々の持つ価値観に至るまで、実にさまざまな話題が本映像では展開されている。同世代の2人が互いへ向ける大きな敬意を下地に対談は進行していくが、中でも特に印象的なのは、やはりそれぞれの世界でトップの人材として走り続ける両者の相反性と近似性を象徴するような一幕だろう。
対談の前半~中盤にかけては、彼らの人物像に関して相反性が表出する部分も多かった。米津と羽生はともに、ミステリアスで物静かな、あるいは柔和で穏やかな人柄のイメージを持つという人も多いはず。しかし、その印象とあまり違わず丁寧な傾聴の姿勢が印象的な米津と、全体を通して熱のこもった言葉を選ぶ羽生と、ともすれば正反対の性格とも受け取れる場面もあった。
両者の違いがどこから生まれているかといえば、対談中も時折話題に上がったように、これはおそらく“表現者・米津玄師”と“アスリート・羽生結弦”の差だ。プロである以上セールスや動員などの数字は確かにつきまとうものの、本来音楽/芸術といったクリエイティブを絶対的な正誤や相対評価で語るのはややナンセンスとも言えるアーティスト。一方で、スポーツの世界には『メダリスト』内でも描かれるように残酷なまでの優劣があり、その中で生存を許されるのは競争に勝ち続けて結果を出す人間のみ。そういった各々のバックボーンで育まれた米津の言葉選びと受容性、そして羽生のストイックさと向上心が、今回の交流で如実に浮き彫りになった点は非常に興味深い。