サザンオールスターズ、『THANK YOU SO MUCH』で未来につなぐバトン “今”を歌い続けた先に拓ける新しい物語

 なぜサザンオールスターズは、ずっと「今」を表現できるバンドなのか? デビュー47年目に生まれた通算16枚目のオリジナルアルバム『THANK YOU SO MUCH』を聴いて、あらためてそう考えているファンは多いはず。

 気がつけば、前作『葡萄』(2015年)リリースから10年が経過していた。しかし、その10年を特別なブランクだとは、ほとんど誰も感じていなかったのではないか。2019年には、デビュー40周年を超えた記念の全国ドームツアー(『“キミは見てくれが悪いんだから、アホ丸出しでマイクを握ってろ!!”だと!? ふざけるな!!?』)。コロナ禍の最中だった2020年6月には横浜アリーナから無観客配信での特別ライブ(『Keep Smilin’~皆さん、ありがとうございます!!~』)。2023年には地元の茅ヶ崎公園野球場での4日間ライブ(『茅ヶ崎ライブ2023』)。2024年には「最後の夏フェス出演」を明言しての『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024 in HITACHINAKA』出演。それぞれが大きな話題を呼んだ。

 その間にデジタルリリースされた新曲群も、サザンが歩みを止めていないことを伝えてきた。とりわけ『THANK YOU SO MUCH』制作の起点となった2023年夏の3カ月連続リリース(「盆ギリ恋歌」「歌えニッポンの空」「Relay~杜の詩」)は強く記憶に残る。3曲のバラエティは豊かだが、そこに込められた物語には、守るべき日本の景色やスピリットをノスタルジックなメッセージとして打ち出すのではなく、未来を生きてゆく世代に向けての橋渡しとしての使命を感じた。

サザンオールスターズ - 盆ギリ恋歌 [Official Music Video]
サザンオールスターズ - 歌えニッポンの空 [Official Music Video]
サザンオールスターズ - Relay〜杜の詩 [Official Music Video]

 それは物語の担い手である桑田佳祐自身にとっても、ひとつの変化だったと感じる。キャリアを積み、年齢を重ねてきたミュージシャンにとって、進むべき道はいくつかに分かれる。「この年齢でもこんなにすごい」と思わせるパワフルさ。あるいは、成熟を感じさせる落ち着いた表現。あるいは、長年の支持への感謝も込めた自分史の振り返り。その、どれとも違う道はないだろうか、と桑田は考え、そこで生まれてきたアイデアが、「物語」を持つ歌詞世界をいつも以上に突き詰めることによって、自分の歌を聴き手の元に「Relay」することではなかったか。

 実際、それはサザンオールスターズの歌世界ではずっと行われてきたことだった。桑田自身のとても個人的な体験や興味から生まれた曲のストーリーであっても、瞬時にして聴き手の中で自分たちの物語として奇跡的に変換されてしまう。それこそデビューのきっかけとなった1977年のコンテスト『East-West ’77』への参加曲「女呼んでブギ」や、お茶の間にまで衝撃を与えたデビュー曲「勝手にシンドバッド」(1978年)の頃から、彼らの「Relay」は無意識のうちに行われてきたのだ。その訴求力の強さは、当時のライブ楽曲で未レコーディングのままだったが、今回「新曲」として復活したこの「悲しみはブギの彼方に」でも見事に証明されている。

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