ぜったくん×木暮栄一(the band apart)、“アスパラガス”を歌う! コラボの真意とヒップホップを語り尽くす

ぜったくんが、the band apartの木暮栄一をフィーチャーした「アスパラfeat. 木暮栄一 (the band apart)」をリリースした。
木暮は自身が執筆するリアルサウンドの連載「HIPHOP Memories to Go」でも明かしているように、ラッパーを目指して挫折した経験を持つ。一方のぜったくんは学生時代にコピーバンドをやっていたほどのthe band apartファン。両者がなぜ今回コラボレーションをするに至ったのか、なぜ“春らしい曲”が「アスパラ」という名前になったのか、そして今ふたりが見つめるヒップホップシーンとは――。たのしく話してもらった。(編集部)
ぜったくんのマネージャーが繋いだ縁「自分でも意外だし、光栄でした」

――これまでにもさまざまな方と一緒に楽曲を制作してきたぜったくんですが、それにしても木暮さんとのコラボのお話を聞いた時は意外に感じました。
ぜったくん:自分でも意外だし、光栄でした。僕は大学時代にコピーバンドをやっていたくらいバンアパ(the band apart)が大好きで。僕のマネージャーがバンドと知り合いだという話だったので、誰かをフィーチャリングして新曲を制作するという話になった時に、紹介してほしいとお願いしたんです。それで木暮さんを紹介してくれて。最初は池袋の飲み屋でお会いしました。
木暮栄一(以下、木暮):ぜったくんのマネージャーは、駆け出しの頃にすごくお世話になった方で、偶然お会いした時に「今担当しているアーティストがバンアパのファンだから一緒にやらない?」と言われて(笑)。ただ、バンドでトラックものの曲に参加するのは難しい部分もあって、「個人であれば柔軟にできると思います」とお伝えしたんです。そうしたらぜったくんがOKしてくれて、池袋の飲み会に繋がっていきました。
ぜったくん:木暮さんがソロでやっているKOGREY DONUTS名義の楽曲もめちゃくちゃかっこいいので、ぜひ一緒にやりたいと思ったんです。飲みながら「一緒に曲を作りたいんですけど」とお話ししたら、「やろうよ」と言ってくださって。普通の大衆居酒屋だったんですけど、たぶんその店で僕だけが緊張してました(笑)。
――(笑)。しかも、木暮さんは今回楽曲制作だけでなくラップでも参加しているんですよね。
木暮:昔、バンドを始めた頃に、同時並行でラッパー活動をしていたんです。ただ、僕以外のグループのメンバーは全然本気じゃなかったので、ひとりになってしまったんですよ。
ぜったくん:僕がやっていたバンドと一緒ですね。誰も本気じゃなかった(笑)。
木暮:ぜったくんの場合はそこからソロになったわけだけど、僕の場合はバンドのほうが軌道に乗り始めて。当時、クラブの終了間際にフリースタイルできるオープンマイクの時間があって、僕がフリースタイルしたあとに「Say Ho!」って呼び掛けたら、「Ho!」って言ったのが自分の彼女だけで、ほかの誰も返してくれなかったことがあって。そこで心がバキッと折れた感じがありましたよね(笑)。
ぜったくん:彼女がいい人(笑)。

――ぜったくんはバンアパのどんなところに惹かれてコピバンをやっていたんですか?
ぜったくん:バンアパの曲は、聴くとかっこいいけど、演奏してみるとめちゃくちゃ難しいんですよ。しかもバンドスコアも出していないので、耳でコピーするしかない。その難しさと、どういう構造なのか理解した時の爽快感に面白さを感じていました。自分はギターボーカルだったので、川崎(亘一)さんのリードギターのパートも、荒井(岳史)さんのバッキングギターのパートも演奏してましたし、原(昌和)さんのベースも木暮さんのドラムも、MIDIで打ち込んで研究してました。
木暮:えー、そうなんだ。
ぜったくん:「夜の向こうへ」を自分ひとりで曲にしたこともあります。演奏のキメと荒井さんの歌のタイミングがまったく違う時があるんですけど、それがなぜか心地好いんですよね。そういうところが好きでした。ただ、それをコピーするのはすごく難しくて。
木暮:そうだと思う。荒井はあまりタイミングを考えてやっているわけではないからね。そこの分離スキルはすごいと思う。
――バンアパとしても、そういった独特のアンサンブルを意識して楽曲制作を行っているんですか?
木暮:どうだろう? 子供の頃から町内にある蕎麦屋さんが、イタリアンに憧れてそういうメニューを出している、っていう感じですかね(笑)。
ぜったくん:(笑)。でも、子供の頃から蕎麦を食べてきた状態でバンアパを聴くとマジでかっこいいんですよね。イタリアンだけど蕎麦屋の出汁も入っている、みたいなよさを感じるんです。だから、もともと邦ロックをコピーしていたまわりの人たちはこぞってバンアパをコピーしていたし、当時の軽音キッズはみんな好きだったと思います。
木暮:へえ。知らなかった。
――木暮さんは、ぜったくんの音楽にどんな印象を持ちましたか?
木暮:最初は名前が全部ひらがなで「ぜったくん」だったので、ボカロP寄りの人で、日本のベッドルームミュージック感溢れる音楽をやっているのかなと思ったんですよね。でも、音源を聴いてみたらローファイヒップホップみたいな感じで、意外と共通項が多そうな音楽だったので、これなら一緒にできそうだなと思いました。もう少しハイパーな感じだったら、どうすればいいかわからなかったと思いますね。
ぜったくん:たしかに、最近のネット感がある名前ですよね(笑)。
「せんべい布団」など候補曲のなかから春らしい「アスパラ」でコラボ

――そんなおふたりのコラボ曲「アスパラ」ですが、この曲は以前にぜったくんがSNSでデモを公開していたものですよね?
ぜったくん:そうです。去年の春の終わり頃にSNSに公開したら評判がよくて。で、木暮さんとコラボできるとなった段階で、まず僕がたたきとなる曲を作るという話になったんですよ。それで今年の正月に新しく3曲作って、「アスパラ」もお気に入りだったので4曲をまとめて送った結果、いちばん相乗効果が生まれそうということで「アスパラ」に決まりました。
木暮:その4曲全部がタイプの違う曲調で、「この曲はこういう風にコラボしたら楽しそうだね」という感想をそれぞれ伝えたんですけど、そのなかでも「アスパラ」は生楽器を入れる余地がありそうだと感じたんですよね。池袋で飲んだ時「もし生楽器を入れるのであれば、うち(the band apart)のメンバーを呼ぶこともできる」という話をしていて。
ぜったくん:ほかにも「せんべい布団」という速めの曲があって、その曲は「テンポを遅めにしてブーンバップにしたら面白そう」という感想をいただいたんです。木暮さんとブーンバップは超ハマりそうなのでそれもいつかやってみたいんですけど、生楽器を入れたほうがリリース時期の春に合いそうということもあって、「アスパラ」にしました。
木暮:(ブーンバップは)僕のルーツだからね(笑)。
ぜったくん:でも、「アスパラ」にしてよかったです。とにかく木暮さんのラップがすごくいいんですよね。
木暮:そんなによかったかな? 身内以外の楽曲でこういうラップをやるのは初めてで。今までもラップした曲はありますけど、それは知り合いが「やれるでしょ?」っていう感じで煽ってくるので、やらないと人として負けた気がする誘い方だったんですよね(笑)。□□□(クチロロ)にせよ、avengers in sci-fiにせよ。そうではなく、真っ当に「ラップをお願いします」と言われたのは初だったので、緊張感がありました。
ぜったくん:そのわりには、緊張感がある感じには全然聴こえないラップでしたけど(笑)。
木暮:あまり力んで熱くなるような曲でもなかったからね(笑)。
ぜったくん:その力んでない感じがすごくよくて。最初に聴いた時、めちゃくちゃアガッて、速攻でLINEしました。
木暮:自分もいろんな人と楽曲を作ってきましたけど、こんなに早くレスポンスを返してくれた方は初めてでしたね。

――制作作業はどのように進めたのですか?
木暮:まず、ぜったくんが骨組みになるドラムパターンやその他もろもろの楽器が入った、今の状態にほぼ近いワンコーラスを送ってくれたんです。そのパーツを使って僕が試しに構成を組んで、ラップを入れて戻して。
ぜったくん:そのラップがとにかくヤバかったので、とりあえず構成の返事は後回しにして、「この“コグラップ”を活かしたいです!」ってLINEをしたんです。そこからコードが変わるパートを増やしたり、そこに自分のラップを入れたりして。2、3回くらいラリーして、トラックを組んでいきました。
――木暮さんは最初に戻した段階でリリックも書き上げていたのですか?
木暮:そうです。最初は何も考えずにトラックに合わせて歌いながら書いたんですけど……と言うとすごくラップができる人みたいですけど(笑)。でも、それを「すごくいい」と言ってくれたので驚きましたね。リリックも、最終的に一カ所変えただけです。もともとは〈持ちつ持たれつ〉だったところを〈乗りつ乗られつ〉にしました。
ぜったくん:ほぼ変わってないですよね(笑)。気になっていたんですけど、このリリックは、どういう場所で考えたんですか?
木暮:場所? ぜったくんにも遊びにきてもらったスタジオで音源をかけながら、だね。もともとの考え方として、話しながらラップしているくらいのテンションでやろうとは思っていて。ぜったくんは、声が高めで曲調もふんわりしたものが多いから、気にしている人は少ないかもしれないけど、ラップがすごく上手いんですよ。テクニカルでメロディアス。なので、ここで僕が熱い系のラップに走ったらダメだと思って。
ぜったくん:少しだらっとした雰囲気の木暮さんのフロウがすごくかっこよかったので、僕は逆に速いフロウをやろうと思って、〈5月なのに30度を更新〉で始まるパートはテンポのいいフロウにしました。一曲のなかでそれぞれのよさを出そうと思って。
木暮:その意味では、相乗効果が生まれたよね。