降幡 愛が『Moonrise』に詰め込んだ80’sオマージュ シティポップから自作の歌詞まで、こだわり抜かれた意欲作を考察

海外でのシティポップ人気にもフィット

 ラストの「OUT OF BLUE」は、Chicagoの「素直になれなくて(Hard to Say I'm Sorry)」を代表とする、80年代を代表するAORのサウンドが心地いいバラードだ。過去の恋愛を振り返りながらも愛しく思う歌詞は、清涼感のあるサウンドによって、切なさを乗り越えて前を向く、すがすがしさを感じられる楽曲だ。岡村靖幸の楽曲にも「Out of Blue」という同名曲があるが、彼女が岡村靖幸の大ファンであるからこそこういうタイトルが自然と出てきたのだろう。

降幡愛
『Moonrise (通常盤) 』

 他にも、メランコリックなムードをソウルサウンドで鳴らした「シンデレラタイム」や、テクノ歌謡の「プールサイドカクテル」など収録。「プールサイドカクテル」というタイトルからは、80年代に雑誌『モーニング』で連載された、わたせせいぞうの漫画『ハートカクテル』を彷彿とさせる。ちなみにわたせは、グラフィカルでメリハリの効いた色彩感覚を特徴とし、当時多くのレコードジャケットを手がけた。『Moonrise』のジャケットには、声優によるアーティスト作品には珍しく本人が登場しない。代わりに、わたせせいぞうや永井博といった、80年代アートからのインスパイアが感じられるイラストが使用されている。

 80年代を過ごした世代なら懐かしくて馴染み深く、80年代を知らない世代には新鮮に耳に届く。そんな本作のサウンドプロデュースは、ポルノグラフィティやいきものがかりなどを手がる、本間昭光が担当。80年代のテイストをあえてそれとなく感じさせるように散りばめながら、海外でシティポップが人気を集めている現状にもフィットするものへと昇華させている。

 タイトルの『Moonrise』は、この作品が降幡だけの力ではなく、スタッフや応援してくれる人たちなど、さまざまなものの力によって完成したことを、月が自らは光を発せないことになぞらえて付けられたそうだ。この作品を作ったさまざまなものの一つには、きっと彼女が愛する80年代の楽曲たちも含まれているだろう。各配信サイトでは、彼女が好きな曲をセレクトしたプレイリストも公開されており、そこにはWink、米米CLUB、岡村靖幸、1986オメガトライブなど80年代アーティストがずらりと並んでいる。それらと合わせて聴くことで、『Moonrise』に込められた降幡の思いを共有できるだろう。

■榑林史章
「山椒は小粒でピリリと辛い」がモットー。大東文化大卒後、ミュージック・リサーチ、THE BEST☆HIT編集を経て音楽ライターに。演歌からジャズ/クラシック、ロック、J-POP、アニソン/ボカロまでオールジャンルに対応し、これまでに5,000本近くのアーティストのインタビューを担当。主な執筆媒体はCDジャーナル、MusicVoice、リアルサウンド、music UP’s、アニメディア、B.L.T. VOICE GIRLS他、広告媒体等。2013年からは7年間、日本工学院ミュージックカレッジで非常勤講師を務めた経験も。

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