降幡 愛が『Moonrise』に詰め込んだ80’sオマージュ シティポップから自作の歌詞まで、こだわり抜かれた意欲作を考察
人気コンテンツ『ラブライブ!サンシャイン!!』のスクールアイドル=Aqoursのメンバー、黒澤ルビィ役を務め、東京ドーム公演や『NHK紅白歌合戦』出場などを果たしている声優の降幡 愛が、9月23日にミニアルバム『Moonrise』でソロアーティストデビューを果たした。楽曲プロデュースと作曲・編曲に本間昭光を迎え、全作詞を本人が手がけた意欲作となった。同作は、今若者に人気の80’sテイストを取り入れたレトロフューチャーな作品で話題を集めている。
80年代のさまざまなネタをオマージュ
公式サイトのインタビューで「再放送で見た80年代〜90年代のアニメの主題歌や母親の影響もあって、その時代のサウンドが体に染みついている」「お店で偶然かかっていた音楽を“めちゃいい!”と思って調べたら80年代の曲だった」など、80年代カルチャーへの愛を語っている降幡。そんな彼女のデビューミニアルバム『Moonrise』は、降幡自身が手がけた歌詞をはじめ、楽曲、ビジュアル、MV、デザインなどすべてにおいて、80年代へのオマージュが込められている。
1曲目の「CITY」は6月に先行配信され、オールバックのヘアスタイルにビッグシルエットのスーツ姿という彼女のビジュアルが大きな反響を呼んだ。キラキラとしたシンセとデジタルビートが鳴り響くイントロを聴いて、フッとレベッカの「フレンズ」を思い浮かべた人も多いだろう。頭のシンセドラムの音色といい、全編に80’sへの愛が溢れている。また降幡のボーカルは、大人のクールさがありながら、まだどこか少女のような無垢さもはらんでいて、その揺れと鋭角的なビートのミスマッチが実に心地いい。
薬師丸ひろ子の主演映画『Wの悲劇』からのインスパイアを感じさせるタイトルの「Yの悲劇」は、ホーンセクションとエレキギターが絡む、スカビートの歌謡ロックサウンド。ここで聴かせる歌声は、実にワイルドで格好いい。まるで、往年の山口百恵を想像させる。また間奏など要所要所で鳴り響くサックスは、どこかチェッカーズが頭に浮かぶような中毒性を持っている。さらにサビは「嫌だ」という言葉をローマ字表記で〈YADA・YADA〉と繰り返しており、この“日本語をわざとローマ字表記にする”のは、80年代〜90年代初頭のヒット曲によくあった表現手法だ。
4曲目の「ラブソングをかけて」は、本作の中では唯一可愛いらしいボーカルが聴ける楽曲だ。ティンドラムの音色も出てくるラテン調の軽やかなサウンドが特徴で、サビでは明るく爽快に転調する。タイトルにある「ラブソング」というワードからも、アニメ『うる星やつら』のオープニングテーマ「ラムのラブソング」を彷彿とさせ、実際に降幡も高橋留美子の漫画の大ファンであることを公言している。