THE BOOM「風になりたい」が愛される続ける理由 宮沢和史『CDTV』出演を機に考える、アレンジと歌詞の妙

時代を越えるシンプルさと普遍的メッセージ

 「風になりたい」は、高揚感あふれるサンバのリズムと、シンプルでゆったりとした心地良いメロディが特徴だ。ガットギターとマラカスによる軽やかな響きと、宮沢のやさしい歌声で始まり、そこにバテリアと呼ばれるサンバの打楽器隊や、コーラス隊が重なり、次第に熱を増していく。生の打楽器によるリズムと大勢のコーラスがユニゾンで声を重ねる心地良さは得がたいもので、現代のほぼ打ち込みやサンプリングで作られているポップスからは感じられない熱気が感じられる。特に間奏で繰り広げられるカーニバルさながらの演奏は、まるで生きたエネルギー。聴けば生命の躍動みたいなものを実感するだろう。

 曲の構成や歌詞は、現在のJ-POPでは考えられないほどシンプルで驚く。メロディはたった2種類しかなく、ほとんど〈天国じゃなくても 楽園じゃなくても あなたに会えた幸せ 感じて 風になりたい〉という、サビの繰り返しだけで構成されている。近年の洋楽のダンスミュージックにおいては、ビートとシンプルなメロディのみで構成され、歌の表現力のみで緩急や起承転結を生み出していく、従来の既成概念にとらわれない楽曲が多数ある。THE BOOMが、25年前にそれを自ら編み出していたことは驚きだが、そうしたシンプルさこそが、時代を経ても色褪せない魅力に繋がっていると言えるだろう。

 歌詞は、どんな苦境に立たされようとも愛するあなたと一緒ならば幸せになれるということを歌っている。人を愛した時に感じる、ごくシンプルな感情なのだが、シンプルであるがゆえに、聴く人それぞれや時代によって様々な解釈で受け取ることができる、懐の深さを持っている。例えば前述の〈天国じゃなくても 楽園じゃなくても あなたに会えた幸せ 感じて 風になりたい〉という一節は、コロナ禍という現状においてあらためて気づかされた、大切な人と直接会って触れあうことのよろこびと、重ねて聴くことができるだろう。また冒頭の〈大きな帆を立てて あなたの手を引いて 荒れ狂う波にもまれ 今すぐ 風になりたい〉という一節は、聴く人を奮い立たせてくれるような強さと大きさを感じ、目の前に可能性に満ちた大海原の光景が広がるようだ。

 かつて何度か、日本を災害が襲った時に「風になりたい」が注目を集めたことがあった。時に困難を乗り越える力になり、時に大切な人を偲ぶ時に寄り添い、時に前を向く勇気を与えてくれる。そんなメッセージと時代を越えるパワーが、「風になりたい」にはあるのかもしれない。

■榑林 史章
「山椒は小粒でピリリと辛い」がモットー。大東文化大卒後、ミュージック・リサーチ、THE BEST☆HIT編集を経て音楽ライターに。演歌からジャズ/クラシック、ロック、J-POP、アニソン/ボカロまでオールジャンルに対応し、これまでに5,000本近くのアーティストのインタビューを担当。主な執筆媒体はCDジャーナル、MusicVoice、リアルサウンド、music UP’s、アニメディア、B.L.T. VOICE GIRLS他、広告媒体等。2013年からは7年間、日本工学院ミュージックカレッジで非常勤講師を務めた経験も。

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