『Brother ブラザー 富都のふたり』ジン・オング監督が語るマレーシア映画界の実情と可能性

『Brother ブラザー』監督が明かす制作秘話

 マレーシア・クアラルンプールのスラム地区プドゥを舞台に、身分証明書すら与えられず過酷な環境で生きてきた兄弟の運命を描いたマレーシア・台湾合作映画『Brother ブラザー 富都(プドゥ)のふたり』が1月31日より公開される。第97回アカデミー賞国際長編映画賞のマレーシア代表に選出された本作を手がけたのは、これまで『ミス・アンディ』などのプロデューサーとして活躍してきたジン・オング。自ら脚本を手がけた監督デビュー作について、来日を果たしたジン・オングに話を聞いた。

「プロデューサーとしての経験がなかったらもっと苦労していた」

ーーもともとプロデューサーとして活躍されていたジン・オングさんにとって、本作は初監督作となりました。どのような経緯で監督を務めることになったのでしょうか?

ジン・オング(以下、オング):きっかけは、2018年に私が大病を患ったことでした。病気になってしまい、入院先の病院で自問自答したんです。「もし明日あの世に行ってしまうとして、自分の人生で何かやり残したことはないか」と。そのときに、「そうだ、僕はずっと映画監督をやってみたかったんだ」と思い返しました。

ーー映画プロデューサーになる前はレコード会社で主にアーティストのマネジメントの仕事をやられていたそうですね。

オング:はい、長い間レコード会社に勤めていました。当時はなんとなく「いつかミュージックビデオの監督をやれたらいいな」と思っていましたね。その後転職してテレビドラマや映画に携わりましたが、なかなか自分の作品を作るという考えには至りませんでした。ただ、心の底にはずっと自分の監督作品を作りたいという願望があったんだと思います。

ジン・オング監督

ーープロデューサーとして作品に携わる中で、監督への意欲が芽生えていったところもあるんでしょうか?

オング:それはあると思います。例えば、自分が熱心に作品をバックアップしているのに、監督が少し怠けていたりすると、これは無駄な時間じゃないのかと考えたりすることがあります。私は新人監督と一緒に仕事をすることが多かったので、自分で撮ったほうが効率的じゃないかと思うこともありました(笑)。

ーー実際にプロデューサーとして数々の作品に携わってきた経験は、今回の初監督作にも活きているわけですよね。

オング:映画制作におけるオペレーションやマネジメントの基礎があったのは大きかったですね。例えば、お金がないときはどういうふうに撮ればいいか、時間がないときはどう効率的に撮ればいいか……そういった現実的な部分での調整は、プロデューサーとしての経験がなかったらもっと苦労していたと思います。

ーー尊敬している監督としてアン・リーを挙げていられますが、どういう作品を好んでいらっしゃるのでしょうか?

オング:私が映画を観るときに一番大切にしているのはヒューマニティー(人間性)です。だからアン・リー監督の作品に惹かれます。日本の映画監督だと是枝裕和監督。『万引き家族』も『怪物』も素晴らしかったですね。直接影響を受けているということはありませんが、是枝監督の作品は『そして父になる』や『万引き家族』など血縁の話を扱っている作品が多いので、ものすごくシンパシーは感じます。

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