ジャック・タンが語る、『Brother ブラザー 富都のふたり』でウー・カンレンから学んだこと

マレーシア・クアラルンプールのスラム地区・富都(プドゥ)で暮らす兄弟の運命を描いたマレーシア・台湾合作映画『Brother ブラザー 富都(プドゥ)のふたり』。聾唖というハンディを抱えながらも堅実に生計を立てている兄アバンとは対照的に、簡単に現金が手に入る裏社会と繋がっており、常に危険と隣り合わせの弟アディを演じたのは、俳優、歌手、モデルとして活躍するマレーシア・クアラルンプール生まれのジャック・タンだ。プロモーションのために来日したジャック・タンにインタビューを行い、アディの役作りやアバンを演じたウー・カンレンとのエピソードを語ってもらった。
『Brother ブラザー』はジン・オング監督との記念碑的な作品に
ーーこれまでもさまざまな作品でコラボレーションされてきたジン・オング監督の長編初監督作ということで、あなたが出演するのも必然だったようですね。
ジャック・タン:ジン・オング監督との出会いは、彼が音楽業界にいたときでした。そこから彼が映画業界に軸足を置き、さまざまな作品をプロデュースする中で、僕もいろんな作品に出演させてもらってきました。そんな中、2019年に監督が自ら書いたこの作品の脚本を読ませてもらったんです。そのときはまだキャスティングも進んでおらず、特に役のオファーをもらったということではなかったんですが、脚本を読ませてもらって、ただ純粋に感動しました。その後、2022年に弟のアディ役としてのオファーを監督から直接いただきました。ただ、旧知の中であるジン・オング監督からのオファーではあったものの、最初はお断りしたんです。
ーーそれはなぜ?
ジャック・タン:過去に自分が演じた役と重複してしまうところがあったんです。ただ、監督と電話で話をして、それでも僕に演じてほしいということだったので、引き受けることにしました。監督とは10年以上の付き合いになるのですが、そんな彼の初長編監督作ということで、受けることにしたんです。いま思い返すと、監督にとっての“1作目”はこの作品しかないわけで、そのとき断っていたら絶対に後悔していたと思います。実際、完成した作品を観てもこの決断は間違っていなかったなと。
ーーお二人にとっても記念碑的な作品になったわけですね。
ジャック・タン:そうですね。いまでも撮影初日のことを思い出すのですが、「監督として現場でどういう振る舞いをすればいいと思う?」と監督から質問されたことがありました(笑)。僕は「まずは現場をしっかりコントロールすることが大事だと思う。クロースアップなど技術的なことはその次だと思います」という話をしました。そういう意味では、僕も少し貢献できたかなと思います(笑)。
ーーこうして実際にお会いすると、映画で観た姿とはかなりギャップがあるように感じます。アディの役作りについても聞かせてください。
ジャック・タン:アディの役作りのために、実は8kgほど体重を増やしたんです。「ギャップがある」と言ってくださりましたが、外見的にはそこが大きいと思います。あとは髪の色も金髪にしました。監督にお願いして、映画の舞台となる富都(プドゥ)を実際に訪れたんです。そこで市場や現地の人々を観察して、役作りにも活かしました。富都意外にも、アディが暮らしていたという設定のマレーシアとタイの国境線のあたりの町にも行って、実際にその土地に住んでいる人たちを見て参考にしました。
ーー聾唖というハンディを抱えながらも市場の日雇いで堅実に生計を立てている兄アバンとは対照的に、アディは簡単に現金が手に入る裏社会と繋がっていて、その生活は常に危険と隣り合わせでもあります。
ジャック・タン:映画の前半と後半とで、見方がかなり変わりますよね。前半はいま話していただいたように、弟のアディの無鉄砲さに苛立ちを覚えるところがあると思います。ただ、これは僕も何度か映画を観て感じるようになったことなのですが、アバンも自分勝手だということです。悲惨な境遇に置かれてしまうアバンはもう生きていたくないと人生を諦めてしまいますが、その考え方自体、僕は自分勝手だなと考えるようになりました。
ーーなるほど。
ジャック・タン:人間誰しも、明るい面と暗い面があると思います。それはアバンもアディも同じ。2人とも自分がやっていることは正しいという認識のもとで行動しています。ただその判断は、ある人によっては正しいかもしれませんが、別の人にとっては正しいとは限らない。そういった認識の違いはこの社会に溢れています。この映画では、そのような誰しもが経験する可能性のあるボタンの掛け違いがうまく描かれていると思います。