宮藤官九郎は新宿・歌舞伎町とどう向き合うのか? 久々のフジドラマは“事件”になる予感

宮藤官九郎×フジドラマは“事件”になる予感

 宮藤官九郎が脚本を手がけるドラマ『新宿野戦病院』が7月期にフジテレビ系列で放送されることが発表された。1月期の『不適切にもほどがある!』(TBS系)、4月期の『季節のない街』(テレビ東京)と3クール連続でのテレビドラマ、しかもすべてオリジナル脚本作だ(『季節のない街』はディズニープラスで先行配信されてはいるが)。

 近年のテレビドラマの中で最も議論を巻き起こしたと言っても過言ではない『不適切にもほどがある!』に続いて、またも議論を巻き起こしそうな『新宿野戦病院』。ドラマ評論家で、宮藤官九郎の作品を観続けてきた成馬零一氏は、「宮藤官九郎がフジテレビドラマの脚本を手がけることには大きな意義がある」と語る。

「宮藤さんのテレビドラマは、NHKでは井上剛さん(『あまちゃん』『いだてん〜東京オリムピック噺〜』)、日本テレビでは水田伸生さん(『ゆとりですがなにか』/映画『舞妓Haaaan!!!』、『なくもんか』など)、TBSでは金子文紀さん、磯山晶さん(『池袋ウエストゲートパーク』『木更津キャッツアイ』『俺の家の話』など)と、複数作品にわたってタッグを組んでいる監督・プロデューサーがいて、多くの人がイメージする“クドカンドラマ”はいずれかに該当するかと思います。そんな宮藤さんのフィルモグラフィーの中でも、少し特殊な位置づけの作品となっているのが、2001年にフジテレビ系で放送された織田裕二さん主演の『ロケット・ボーイ』です。2000年に『池袋ウエストゲートパーク』の脚本を手がけたことをきっかけに宮藤さんへオファーがあったようですが、石田衣良さんの原作小説のドラマ化であり、演出を担当した堤幸彦さんの作家性の方が全面に出ていたので、脚色がうまいアレンジャーという位置付けでオリジナルドラマが書ける脚本家としての評価はまだ保留という感じでした。その意味で『脚本家・宮藤官九郎』の名前を多くの人が認知したのは、2002年の『木更津キャッツアイ』だったと思います。対して『ロケット・ボーイ』は宮藤さんの名前が知れ渡る間(はざま)のタイミングで作られた作品で、“クドカン節”とも言えるような笑いの要素も抑え目で、今振り返ると位置付けの難しい異色作だったなぁと思います。だからこそ、国民的脚本家となった宮藤さんが、23年ぶりにフジドラマを手がけることには、大きな意義があると思います」

 その一方で、『ロケット・ボーイ』には現在の宮藤官九郎作品につながる要素がしっかりあったと成馬氏は続ける。

「男性3人が自分の人生を見つめ直す中で、恋人や家族との関係にも変化が生まれていくという構成は、後の『ゆとりですがなにか』にも重なるものがあります。また、宮藤さんは先日逝去された山田太一さんの影響を受けていることを感じますが、山田さんの『ふぞろいの林檎たち』(TBS系)にいちばん近いのが『ロケット・ボーイ』だったのではないかなと。『踊る大捜査線』シリーズや『彼女たちの時代』などを手がけた高井一郎プロデューサーが『池袋ウエストゲートパーク』を観て宮藤さんを抜擢したそうですが、普遍的な親子愛や友情を描ける脚本家だと思い、ヒューマンドラマを描いてほしいとオファーしたそうです。高井さんの評価は現在の視点で見ると的確で、当時はまだ小ネタを散りばめた笑いを得意とする新進気鋭のサブカル作家という印象が強かった宮藤さんの本質を見抜いていたと思います。後の『木更津キャッツアイ』『タイガー&ドラゴン』『俺の家の話』といった作品で全面化していく家族の物語や、“生と死”といったシリアスなテーマを先駆け描いていたのですが、当時、不運にも主演の織田さんが収録中に怪我で入院されたこともあって、放送が短縮されてしまったのが非常に残念でした。織田さんが演じていたキャラが怪我をして車椅子になるという設定にしたり、短縮するにあたっての改変も面白かったのですが、もしこのときに全話版が完成していたら、この時点で宮藤官九郎の名前が世間に発見されていた可能性が大きかったように思います」

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