宮藤官九郎が語る、役者に対する思いと“笑い”にこだわる理由 「全部コメディと思ってる」
宮藤官九郎が企画・監督・脚本を手がけた連続ドラマ『季節のない街』が4月5日からテレ東のドラマ25枠(毎週金曜深夜24時42分)で放送される。
2023年にディズニープラスで配信された本作は、12年前に起きた“ナニ”と呼ばれる災害によって家を失った人々が暮らす仮説住宅を舞台にした1話完結の人情喜劇。原作は山本周五郎の同名小説。黒澤明の映画『どですかでん』の原作としても知られる本作のドラマ化は、宮藤が長年温めてきた思い入れの深い企画だ。
地上波放送を記念して、リアルサウンドでは宮藤にインタビューを行った。本作が生まれた経緯や撮影時の様子、脚本家・監督としての考え方や役者に対する思い、そして宮藤の作品から切り離すことができない「笑い」に対する考え方について話してもらった。(成馬零一)
「映像技術に関しては僕は全く自信がない」
ーー昨年、ディズニープラスで配信された『季節のない街』が、テレ東の深夜枠で放送されます。ドラマ公式サイトに掲載された宮藤さんのコメントを読むと、深夜ドラマを想定されたそうですね。
宮藤官九郎(以下、宮藤):原作小説は短編集なんですけれど1話完結で全10話を作るとしたら、内容的にも地上波のゴールデン向けではないし、まだ書く前の時間感覚としても、45分ではなく、25~30分だと思ったんですよね。それで30分のドラマを毎週やっている局となるとテレ東じゃないかと思って、旧知の濱谷晃一プロデューサーに「こういう作品があるんですけど」と最初にお願いしました。ただ、こういう設定だと予算がかかるので、ちゃんと映像化するには、他のことも考えないといけないという時にディズニーさんが面白がってくれて、「やりましょう」と言ってくださったので、じゃあ、最初に考えた1話30分、全10話の話にしようと思いました。
ーー配信の時は全話脚本を執筆されてからの撮影でしたが、配信に決まったことで内容には何か影響はありましたか?
宮藤:いやぁ、ないですね。むしろ配信なのに、なんでこんなに尺がシビアなんだと思っていました(笑)。配信だけだったら時間を気にしなくていいだろうって思うけど、それを言うといずれテレ東さんで放送する時に「やる」って言いづらいだろうなぁとか、よくない前例を作っちゃいけないよなぁと思いながら撮っていたので、結構、尺は大変でしたね。プロデューサーの濱谷さんからは、「第1話と最終話だけちょっとだけ尺が伸びますが、絶対、その2回だけですからね!」って言われて。
ーー他の監督も、尺をもっと欲しいと言いますよね(笑)。
宮藤:それはそうだなって(笑)。実は第1話を撮っている時点で無理だとわかってたんですよ。人物紹介だし、絶対にこの尺には収まらないなと撮っている時からわかってたので、伸びるとわかってよかったと思いました。
ーー連続ドラマだと途中まで書いてから放送と追いかけっこになることが多いと思います。連続ドラマの書き方と今回みたいに全話執筆してから撮影に入るのでは、脚本の書き方は変わりましたか?
宮藤:他のドラマの時は役者の動きを見て、この人面白いから役を膨らまそうと考えるのですが、今回は監督が3人ともロケ地にいて、他の人が撮っているところも見ていたので、いつも脚本の上でやっていることを、現場で撮影しながらやっていたという感じですかね。役者もカメラマンも一緒だったし、他に何もすることがない街だったので(笑)。東京に帰らない限り現場にいたので「あのシーン、今撮れるんじゃない?」「あのシーン、撮り直したいから入れてもらっていい?」みたいなことが、やりやすかったです。
ーー今回は監督が宮藤さんと渡辺直樹さんと横浜聡子さんですが、3人で話しながら撮影を進めていたところもあるんですか?
宮藤:ありますね。特に(渡辺)直樹さんは助監督のチーフも務めていたので、頭からケツまで全部の現場に立ち会ってます。
ーー渡辺直樹さんは監督回以外にも、監督補としてクレジットされていますね。
宮藤:直樹さんは2カ月半、東京に一回も帰ってないんじゃないですかね。俺は編集で何回か抜けましたし、横浜さんも編集で一回抜けたのですが、そうじゃない限り基本的に現場にいたし、撮休の時も何かのロケハンがあったら、行かないとサボってるみたいになるので(笑)。「用はないけど行きます」みたいなことも結構ありました。だから、いつも俺がホン(脚本)の上でやってることを、現場で監督と話し合いながらやった感じはあります。
ーー監督作としては2016年の映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』以来となりますが、監督:宮藤官九郎が撮る時と別の監督に脚本を渡す時とでは、脚本の書き方は変わりますか?
宮藤:変わらないつもりですけど、「ここは後でこうしよう。まぁ台本には書かないけど」というところは多少はあるかなぁと思います。監督をやると「他の監督がこういうふうにやりたくなるのは、こういう気持ちなんだなぁ」とわかることが多いですね。脚本だけだと「あんなに打ち合わせをしたのに、なんでこの台詞カットするんだよ」と思うことが多いのですが「結果、なくてよかったな」って毎回思うんですよね。それを言っちゃうと負けだから言わないんですけど、俺が撮る時も同じように思うことがあって、「この台詞いらねぇな」と思ってカットするのですが、俺が書いた脚本だから脚本家に申し訳ないと思わなくていいのは、すごく大きいかな。横浜さんと直樹さんからは「台詞カットしてごめんなさい」「現場であのシーン、入らなくて撮れなかったです。すいません」と言われましたけど、全然なんとも思わなかったです。だから、脚本だけ書いてると「何でできないんだ? 何でやらないんだ?」と思っちゃうので、よくないですね。
ーー脚本の時点で、完成した映像のイメージはある程度、浮かべながら書いてるのですか?
宮藤:浮かべないで書いているつもりですけど、現場に行って明らかに違うと感じて、初めて「あ、決まってたんだな」と自分で気付く。そういう時はなるべく今思いついたみたいな感じを装いますね。「俺はそういうつもりなかったけど、こっちの方がいいですね」って。最初から決めてたくせに(笑)。逆に俺はそんなに時間かけるつもりがなかった場面で直樹さんと横浜さんが時間をかけていたり。横浜さんの第3話の導入部は、現場で見ていて上手いなぁって感心しちゃいましたね。
ーークレジットに企画・監督・脚本とありますが、今回はなぜ全部やろうと思われたのですか?
宮藤:普段は「企画」は入れないんですけど、今回は思い入れが強かったのと、明確に自分発なので、企画として名前を出してもいいかなぁと思いました。いつもはお話をいただいてからやることが多いんですけど、『季節のない街』は「この原作をドラマ化したいです」と僕の方からお願いしているところもあって、企画に名前を出せば「本気を出している」と思ってもらえるかなぁという、いやらしい気持ちもあって、あえて「企画」とつけましたね。
ーー実際に仮設住宅を建てたそうですね。
宮藤:仮設住宅は、脚本を書いている途中で何箇所か見に行きました。当初は住んでいた人が出て行った後の仮設住宅で撮る案もあったのですが、そこに行くまでの交通費を考えたら、どこかの空き地に建てても変わらないですと言われて。だったら「建てたら、やりたい放題だなぁ」と思って、空き地を見に行って、建てるという選択をしました。
ーー廃校の校庭に仮設住宅が建っているビジュアルが、すごく良かったです。
宮藤:東日本大震災の時も、学校の校庭がそのまま仮設になっているところがあったんですよね。林間学校じゃないですけれど、ちょっと合宿感がありますよね。
ーー撮影の裏話を聞くと特にそう思います。宮藤さんは脚本のイメージが強いので、台詞が注目されがちですが、映画を観ると奇抜なイメージがすごくたくさん出てきますよね。ビジュアルについては監督としてどうお考えですか?
宮藤:映像技術に関しては僕は全く自信がなくて。それはもう上手な人がいっぱいいるから。それにしたって言葉で説明できないことが多すぎるから、絵コンテを描くようになったんですよ。絵を書いて初めて自分の中でビジュアルが浮かぶものがあるということに気がついて、わかりづらい時はコンテを書くようになりました。今回は描かないつもりだったんですけど、描いた方が早いと思って、第10話の乱闘シーンは全部絵コンテを描いて、その通りに撮りました。