応援上映の全国一斉開催は体験の質を下げる? 映画興行の画一化がもたらすもの

映画興行の画一化がもたらすもの

 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来などを提案するこのコラム、第49回は「映画興行の画一化は何を引き起こすか」というテーマで。

「〇月〇日全国一斉販売開始」
「〇月〇日〇:〇〇 応援上映開催」
「均一料金〇〇円」

 映画ファンの皆様は、最近頻繁にこういうものを目にするのではないでしょうか? 映画の公開日こそ、遥か以前から全国一斉が大多数でしたが、ここ数年はそれに収まらず、何かしらのイベント上映だと日時のみならず予約/販売開始日が一斉であることも増えてきました。短尺のアニメ作品などに多く見られますが、料金を均一にするパターンもかなり増えてきました。一般料金2,000円のところ1,600円均一で、ということが多いですね。

 開催日の指定、場合によっては上映開始時間の指定、料金の指定、販売開始日の指定、そしてこれらの情報解禁の日時指定、この日この時に配布する入場者プレゼントがあるなど、映画館側の業務はここ数年で複雑化してきています。こういうのが数作品もありますからね。

 ただ今回のコラムは、これが大変だ、という愚痴を書こうというものではありません。配給会社による興行のコントロールの拡大がもたらす画一化が、映画館に及ぼす影響について書かせていただこうかと。

 まずは日時指定のメリットから挙げていきましょう。

 これはもう誰が考えても明らかなように、一番大きいのは「バズ狙い」ですね。最初に上映時間の指定が大規模に行われたのは『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の時だと思います。この時は初日から3日分の時間指定があり(指定以外の回数追加は可能でした)、可能な劇場は全国一斉に該当上映分の予約/販売を公開1カ月前から開始、というものでした。

 SNSの普及により、特にイベント的に沸く大型作品においては「同時性」というのが重要になってきました。全国で上映開始時刻を合わせることで、始まる前や終映後の投稿が同時間帯に一斉に行われればSNSのトレンドにランクインして、それがさらに宣伝に繋がります。また宣伝だけでなく、ファン側のネタバレを踏みたくないという要求にも応えるものにもなります。どんな地方の小さな映画館であっても、他より1時間早く上映を開始していたら、そこで観た人が投稿する可能性がありますからね。

 これに対してデメリットの一番大きなものは、映画館の個別の施策が封じられてしまうことです。

 例えば予約/販売を他より早く開始する、というのも競合との差別化施策として有効です。シネコンという業態の最大の強みは、混雑状況によって上映回数や開始時間、劇場サイズを大小に割り振ることができることであり、スケジュールを早く出すこと、販売を早くすることにはリスクがあります。しかしお客様としては早くスケジュールがわかっていたほうが予定が立てやすいわけで、そこにリスクを取っての差別化チャンスがあるわけです。

 例えば僕のいるシネマシティでは、Web予約の開始を有料会員先行で4日前、一般のお客様で3日前からにしています。一般的には上映の2日前開始が多いかと思います。早くしているのは上記の考え方からですが、ここのところの一斉施策のために、開始日をずらす必要がある場合が増えています。

 すっかり定番化したいわゆる「応援上映」も、今では一斉施策に組み込まれています。日時の指定だけでなく、配給会社のほうでルール設定が細かく決められたり、この場面ではこのように声を出して、ペンライトの色は何色で、と説明する動画が用意されたりもします。

 このことのメリットは「バズり」に加えて、無用なルール、マナー違反を抑えることも加わるでしょう。以前このコラムでも「応援上映の体験の質」が参加者に大部分委ねられてしまうことのリスクについて書いたことがありますが、応援上映というスタイルは楽しい一方、楽しさは人それぞれであり、誰かの一言や行動が他の誰かの気に障ってしまうことも少なからず起こります。一斉に同じやり方で行うことはこういうことを抑えるのに有効な方法のひとつでしょう。

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