応援上映の全国一斉開催は体験の質を下げる? 映画興行の画一化がもたらすもの

映画興行の画一化がもたらすもの

 では応援上映一斉化のデメリットはなんでしょう。

 シネマシティでは、映画館開催としてはまだほとんど例がなかった2009年頃からこういうタイプの上映スタイルに取り組んでいました。絶叫上映なんて呼ばれていた頃のことです。この時はもちろん映画館の独自企画です。

 参加される方も未経験であることが多いですから、いかに楽しんでいただくか、場をあたためられるか、様々に工夫を凝らしてきました。失敗もありましたが、ありがたいことにいくつかの作品で非常に大きな成功を収めたので、やがて同様のスタイルでの上映が他館でも増えていきました。

 こういう基礎が少しずつ固まってきたところで『KING OF PRISM by PrettyRhythm』での配給会社から仕掛ける応援上映の大成功が生まれました。これがきっかけで応援上映が公式宣伝施策の一環に組み込まれるようになったかと思います。

 このことで、逆に映画館側が独自で開催するということは難しくなりました。前述のように応援上映は繊細な側面を持つもので、場の雰囲気、参加人数の多寡、参加者の熱量にその質が大きく左右されるものです。例えば300席の劇場に、30名しか集まらなかったら盛り上がるのは難しいでしょう。全国一斉なら何十箇所で行われているわけですから、ファンも分散します。それを補うためか、特別な入場者特典が配布されることもあります。これは集客には効果的ですが、一方、この特典だけが目当ての熱量の低い方も集めてしまいます。

 体験の質だけを考えるなら、応援上映の全国一斉開催はあまり向いていると思えません。その地域やその映画館の特性、これまでの上映でどういうお客様が足を運んでくれるのかなどを踏まえた上で、それぞれにやり方を調整して行うのがベストでしょう。先ほど300席の劇場に30名だったら、という例を出しましたが、これだってやり方によってはむしろ逆に大盛り上がりの可能性もあるわけです。ファン同士が親密だったり、場の空気を上手く作れたならば。

 それぞれの劇場が、様々なスタイルの応援上映を行っていたら、それを望むファンがそれぞれに集まるかも知れません。この多様さがエンターテインメントになります。例えばシネマシティでは『RRR』で日本語禁止応援上映をやりました。使っていいのはテルグ語・ヒンディー語・英語のみ。

 同様の意見になるので詳述は避けますが、映画料金の一律指定も各映画館の独自施策を阻むことに繋がります。2019年にTOHOシネマズが一般1,800円→1,900円に値上げして以来、映画料金は基本料金でも各社で異なるようになりました。そしてそれは、それぞれの差別化施策のひとつになっているわけです。各種割引制度はもっと多彩です。

 しばらく前から日本のスクリーン数の9割はシネマコンプレックスという業態であり、かつそのシネコンも年々大手チェ-ンの寡占化が進んでいます。

 大手チェーンの迫る大波に、シネマシティのような独立系零細シネコンがさらわれないためには「ここにしかないモノ」を作り続けるしかありません。あまり興行の画一化が進み、自由の幅が狭くなってしまうと新しいものが生み出しにくくなります。それは結局、業界全体の活力を減じることになると思います。

 公式主導による施策のいくつかの成功体験と、加えてSNSが社会において良い意味でも悪い意味でもあまりにも大きな影響を持つことになってしまったので、その作品の興行全体をきっちりコントロールしたいということも重々理解できますから、難しいですね。そもそも業態のライフサイクルも成熟期にあると思われ、仮に自由が与えられたとしても、新奇で魅力的なものを作ることは年々難しくなっていると感じます。

 それでも立ち止まったら後退するだけ。何か新しいことを、何か面白いことを。どうせ許可されないだろう、と最近あきらめがちな自分に喝。自由は不自由の上に生まれるってTV版『新世紀エヴァンゲリオン』の最終話で言ってたし。

 You ain't heard nothin' yet !(お楽しみはこれからだ)

■立川シネマシティ
『シネマ・ワン』
住所:東京都立川市曙町2ー8ー5
JR立川駅より徒歩5分、多摩モノレール立川北駅より徒歩3分
『シネマ・ツー』
住所:東京都立川市曙町2ー42ー26
JR立川駅より徒歩6分、多摩モノレール立川北駅より徒歩2分
公式サイト:https://cinemacity.co.jp/

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