『どうする家康』ムロツヨシの狂気の芝居を忘れない 秀吉らしい切ない最期

『どうする家康』秀吉らしい切ない最期

 『どうする家康』(NHK総合)第39回「太閤、くたばる」。秀吉(ムロツヨシ)に再び子が生まれたのは、壮大な夢である唐入りを和議をもって終結すると決めた直後だった。しかし石田三成(中村七之助)たちが結んだ和議が嘘だとわかると、秀吉は朝鮮へ兵を差し向けると宣言する。

 秀吉の暴走が再び始まる前、家康(松本潤)を長く支え続けた家臣・酒井忠次(大森南朋)がこの世を去った。忠次は最後まで、良き家臣だった。ある場面で、忠次は家康を力強く抱きしめ、「ここまで、よう耐え忍ばれましたな。つらいこと、苦しいこと……よくぞ、乗り越えてまいられた」と声をかける。忠次は、家康が“か弱きプリンス”だった頃から支えてきた。家康が天才や猛将たちに食らいつき、さまざまな苦難を乗り越えてここまでやってきたことを誰よりも理解している忠次でなければ、この言葉をかけることも、力強く抱擁することもできなかったと思う。家康と言葉を交わした3カ月後、忠次は出陣の陣触れがあったと具足を身につけて最期を迎えた。幾多もの戦いを切り抜けた武者らしい見事な最期だった。

 忠次は家康に最後の願いとして天下を取ることを望んだ。「天下人など……嫌われるばかりじゃ……。信長にも秀吉にもできなかったことが、このわしにできようか?」と返す家康に、忠次は断言する。

「殿だからできるのでござる」
「戦が嫌いな殿だからこそ」
「嫌われなされ」
「天下を取りなされ!」

 ほとんど見えていないはずの忠次の目が、力強く家康を捉えていた。

 第39回では、「欲望の怪物」とも称された秀吉もまた最期を迎える。茶々(北川景子)に拾(後の秀頼)が生まれ、二度目の朝鮮出兵が始まった最中、秀吉は倒れた。

 家康と向かい合う秀吉はげっそりとやつれ、その口ぶりは弱々しい。家康が「情けない。これではただの老人ではないか」と言っていたように、すっかり耄碌しきって見える。だが、その本心は欲望の怪物のまま。三成の前では最後の望みとして民の幸せを願った秀吉だが、本心では世の安寧も民の幸せもどうでもよく、ただ息子・秀頼の幸せだけを望んでいる。秀吉の佇まいからは死の匂いが漂うが、それでもなお欲望を満たすことを優先する姿には不気味さも感じられる。秀吉の身勝手な振る舞いが唐や朝鮮の怒りを買い、諸国大名や民も不満を募らせている。「こんなめちゃくちゃにして放り出すのか!」と憤る家康に、秀吉は「な〜んもかんも放り投げて、わしはくたばる。あとは、おめえがどうにかせえ」と煽り、高笑いしてみせた。そのまま息絶えたかのように見せかけた秀吉に、家康は思わず「猿芝居が!」「大嫌いじゃ!」と声を荒らげた。

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