『どうする家康』ムロツヨシが秀吉として初めて見せた“本当”の姿 茶々VS阿茶局のおなごの戦も

『どうする家康』秀吉の“本当”の姿

 『どうする家康』(NHK総合)第38回「唐入り」。次の狙いを国外に求めた秀吉(ムロツヨシ)は、諸大名を肥前名護屋城に集め、唐入りを命じた。朝鮮に渡った加藤清正(淵上泰史)たちからの連戦連勝という知らせに秀吉はご満悦だが、家康は半蔵(山田孝之)や大鼠(松本まりか)を通じて、苦戦を強いられているという裏情報を掴む。家康は石田三成(中村七之助)とともに、「狐に取りつかれている」と噂されるほどに暴走する秀吉を止めようとする。そんな家康の前に茶々(北川景子)が現れた。

 茶々と阿茶局(松本若菜)のやりとりは、第36回とは異なる形なれど「おなごの戦」であり、ゾクゾクするほど魅力的だった。

 秀吉を夢中にする茶々だが、視聴者は第30回で父と母を失った幼き日の茶々(白鳥玉季)がとった行動を覚えているはずだ。母・市(北川景子)を助けに来なかった家康を非難した茶々は、「徳川殿はうそつき」「あの方を恨みます」と言った。そして母との別れの間際、「母の無念を茶々が晴らします」「茶々が天下を取ります」と誓う。豊臣家の庇護に入る茶々の頬に秀吉が触れた時、茶々はその手を握り返し、妖艶な笑みを浮かべた。あの時から、茶々は秀吉の心に巧みに入り込んでいる。そして第38回では、家康の心に入り込もうとする。

 茶々は「茶々はずっと思っておりました。あなた様は私の父であったかもしれぬお方なのだと。まことの父は、あなた様なのかもと」と目を潤ませて家康を見つめる。しかしここで、白鳥演じる幼き茶々が、母が家康と結婚していたかもしれないとはしゃぐ妹たちを前に「つまらぬことを申すな。我らの父は浅井長政じゃ」と言い切ったことを思い出したい。茶々のたぶらかすような言動は秀吉への恨み、いやそれ以上に、家康への恨みからきているのだと改めて思わされる。

 家康は市によく似た茶々に取り込まれそうになるが、そこへ阿茶局が現れる。阿茶局は落ち着いた佇まいで微笑みをたたえているが、茶々を注意深く見ていた。

「殿下に取りついた狐がいるとのうわさを耳にいたしました。我が殿にも取りついてはなりませぬゆえ、狐を見つけたら退治しようと……。お見かけになっておりませぬか?」

 阿茶局が茶々や家康に向ける視線で、茶々は自分の目論見が見抜かれていることを悟る。「見ておりませぬ」と返す前のほんの一瞬、阿茶局が話すのをじっと見る茶々の顔つきがこれまでと違って見えた。その面持ちは秀吉や家康の前で見せる魅惑的な笑顔ではなく、幼き茶々が秀吉を前に覚悟を決めた時のものに似ていた。阿茶局が食えない人物だと気づき、思索を練っていたのではないか。会話の終わり際、茶々と阿茶局がお互い見せた笑顔には牽制の意味が込められていたように思う。

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