小林千晃、『葬送のフリーレン』で改めて考えた死生観 「生き方の在り方も一つではない」

『葬送のフリーレン』小林千晃が考える死生観

 『金曜ロードショー』(日本テレビ系)にて華々しく幕を開けたTVアニメ『葬送のフリーレン』。しかし、フリーレンたちの壮大な旅はまだまだ始まったばかり。彼らの冒険がたどり着く先々には、未知の土地であるにもかかわらず、私たちの心の奥底をくすぐる不思議な懐かしさが宿っている。

 10月6日放送回では、フリーレンたちがとある村で出会った青年・シュタルクにスポットが当たった。その声を演じたのは、『マッシュル-MASHLE-』『地獄楽』などで主演を務め、着実に声優としてのキャリアを切り開いてきた小林千晃。

 作品を通して「死生観について改めて考えました」と真っ直ぐに答えてくれた彼に、「原作からのファンでした」と愛着たっぷりな『葬送のフリーレン』への想い、そしてアイゼンのように彼の演技を導いた“恩師”についても語ってもらった。【インタビューの最後には、サイン入りチェキプレゼント企画あり】

限られた人生の時間で「声優」として作品を残していくことについて

小林千晃
小林千晃

ーー本作は『金曜ロードショー』で初回が放送され、以降は日本テレビ系での金曜日23時の新アニメ枠「FRIDAY ANIME NIGHT(フラアニ)」で放送されます。作品に携わった一員として、どんなことを実感されていますか?

小林千晃(以下、小林):まず『葬送のフリーレン』そのものが、アニメファンかどうかを問わず、どんな方の心も揺さぶる作品だと思っています。だからこそ、こうしたアニメ業界での新しい試みにはぴったりですよね。OP・EDを飾るアーティストの方や監督をはじめとする制作陣、そして僕らキャストの全員が本気で取り組んでいる作品なので、いち関係者からしても「初回スペシャルは『金曜ロードショー』に相応しい」と自信を持って言えるクオリティだと思っています。きっとたくさんの方に楽しんでいただけるはずです。

ーーPVでは今回の見どころの一つとも言われているEvan Callさんの劇伴も流れています。完成した映像を観た時の感想を教えてください。

小林:元々原作ファンだったこともあり、お話のイメージは出来ていたのですが、アフレコの時はPVが流れる前で。なので、完成映像はあくまで想像でしかなかったんです。それもあって、途中でEvan Callさんの劇伴も加わった完成PVを観たときに、「フリーレンの世界がここにある!」と一人のファンとして感動していました。でもその感動は、僕が原作を知っていたから生まれたものではなくて。CGを使わずに、あそこまでヌルッと綺麗にキャラクターが動くんですよ?(笑)

ーー確かに映像の美しさには目を見張るものがあります。

小林:昔からアニメを観てきた方はもちろん、最近のアニメに馴染みのある方にも新鮮さがあるはず。原作を知らなくても、きっと皆さん引き込まれるだろうと思います。

ーーさまざまなテーマが内包されている本作ですが、小林さんは作品を通してどんなテーマを感じましたか?

小林:作品を通して、死生観について改めて考えました。「自分は人生の中で何ができるか」とか、「いつ死んじゃうのかな」とか……僕、普段から考えちゃうんですよね。20代後半ぐらいになってからよく考えるようになって。この作品は、エルフと人間の寿命への視点の違いに心を動かされながらも、同時に「ちゃんと生きなきゃ」と思わせてくれました。

ーーそれこそ新パーティーのフリーレンたちは魂の眠る地 (オレオール) を目指します。小林さんは“死の先”はあると思いますか?

小林:死んだら、そこで終わりなんじゃないですかね。輪廻転生という言葉もありますが、基本的には“1回きりの人生”ってよく言われるじゃないですか。とはいえ、死にもいろんな種類があると思っています。例えば、肉体的な死と精神的な死。作中では、ヒンメルやアイゼンたちが残された人に何を託していくかが描かれていますよね。しかも、フリーレンは "託されたもの”からちゃんと彼らを思い出しているわけで。でも、そんな風に思い出してくれる人すら死んでしまったらどうなるんだろう、とか。

ーーヒンメルの銅像を観て、街のおばあさんが記憶を辿る場面もありました。

小林:ですね。仮に1000年生きているエルフのフリーレンが死んだとしても、村には銅像や言い伝えがあるかもしれない。そう考えると、死だけでなく生き方の在り方も一つではない気がします。僕はまだまだ体も元気だし、やりたいこともいっぱいあるから、人生を長く感じるんでしょうね(笑)。それでも死の重みが、年齢を重ねるごとに深くなっていくんだろうとは思います。フリーレンが人間の寿命を「短い」と感じる場面は多々描かれていますが、きっと普通に生きている人からしても、人生って多分あっという間に終わってしまうものなんだろうな、と。行ける場所だって限られているし、親だっていつまでも生きているわけじゃないので。

小林千晃
小林千晃

ーー人生の時間が限られてるからこそ、「声優」という職業で作品を残していくっていうことに対してはどう考えていますか?

小林:声優を始めた当初は、「声のお芝居に集中できればいい」と思って、表舞台にはあまり興味なかったんですけど。自分の生きてきた証明という意味では、声だけでなく“小林千晃”として表に立つ重要さも感じています。

シュタルクの軸は“自分を頼りにしている人の想いに応えたい”という気持ち

ーー初回スペシャル放送では未登場だったこともあり、シュタルクの登場を楽しみにしている方も多いと思います。小林さんからみたシュタルクの印象はどのようなものですか?

小林:とにかく優しい子、です。彼が背負ってきた物語は、思春期の青年にしてはあまりにも重いストーリーなはず。それでも誰かを憎むことなく、「俺に才能がないからいけないんだ」って考えられるところは彼の魅力ですよね。ネガティブに捉えれば自己肯定感が低いとも言えるかもしれない。でも、数年しか滞在していない村の人たちのために命を張る優しさはやっぱり本物だし、演じていて気持ちいいんですよね。いいヤツだから(笑)。

ーーシュタルクは繊細な一面と強さを見せる一面、さらに新パーティーではコミカルなポジションでもあるキャラクターですよね。そういうギャップのあるキャラクターを演じる上で意識されることはありますか?

小林:「そのキャラクターが大切にしているもの」を考えます。シュタルクの場合は、“自分を頼りにしている人の想いに応えたい”という気持ちが軸にあると思いました。シュタルクの人生って、自分に強い興味を持ってくれる人がアイゼン以外にいなかったわけで。

ーーある意味で、「期待されない」孤独を知っている人物でもありますよね。

小林:そうなんです。でもフリーレンは出会って日が浅いのに「できるはずだ」と認めてくれた。「自分に期待をして、必要としてくれる人のために頑張りたい」と思うのは、人として当然と言えば当然というか。自分の子供のために親が頑張るのと、同じベクトルなんですよね。村の人たちも同じように、シュタルクが大したことないと下げている彼自身のことを頼ってくれているわけです。

ーーシュタルクを演じるにあたって、監督からのリクエストはありましたか?

小林:あんまり言われなかったんですよね。思うままにやらせていただいて。僕が演じる直前まで、フリーレンとフェルンが、物理的距離感よりも精神的距離感を大事にしている印象があったんです。例えば、10メートルぐらい本人たちの距離が離れてる中で、目の前で話すような演技をされてました。きっと10メートルの距離感を常に意識し続けると、かなり大きな声で掛け合うことになるから、アニメの中のキャラクターの印象とブレが生じることを気にされていたんだろうと思って。なので喋ってるときの温度感とバランスを2人に合わせるようにしました。結果的に特に大きなリテイクもなかったので、この作品に限って言えば正解だったのかもしれません。

小林千晃
小林千晃

ーーシュタルクに限らず、キャラクターの役作りをする際に、役を理解するときは何から始めるのでしょうか?

小林:役作りらしい役作りは、あんまりしないんですよね。キャラクターを改めて振り返るみたいなことはしていなくて。もちろんそのキャラのバックボーンを紐解いていくことにも意味はあるのですが、それ以上に現在進行形で流れている感情の方が重要というか。例えばシュタルクだったら、「辛い過去があったから自信のない喋りにしよう」ではなく、その場のフェルンとフリーレンの言葉に対してシュタルクも応えていくような……。自分で考えたものを持っていく大切さもあるかもしれませんが、それはディレクションに託して、僕は目の前にある役者さんとのお芝居とか、あとはシュタルクが“今”何を思ってるのかに向き合いたいと日々思っています。

ーー今回共演した種﨑敦美さん、または市ノ瀬加那さんとの会話で印象的だったエピソードがあれば教えてください。

小林:3人で一緒にご飯に行かせていただいた時に、種﨑さんから意見を求めてもらったことが印象的でした。種﨑さんの方が先輩ですし、逆に僕が聞くべきことはあると思うんですけど。あれだけ輝かしいキャリアを持つ方が、僕みたいな後輩に聞くことなんてないんじゃないかなと思うじゃないですか(笑)。立場を問わずに聞く演技への探究心にリスペクトを感じました。

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