『葬送のフリーレン』『七つの大罪』が新枠で放送 テレビがアニメに力を入れる2つの理由
2023年10月期の新作アニメは70本を超える。おそらく過去最多レベルだ。
いくらなんでも多すぎるのではないかと思うのだが、これも国内外でアニメの需要が旺盛であることの証だろう。しかし、10月以降のテレビアニメの放送に関して、注目すべきは数だけではない。放送時間にも変化が表れている。日本テレビで放送される『葬送のフリーレン』は初回2時間スペシャルを21時台の『金曜ロードショー』で放送した後、同番組のすぐ後の23時から毎週放送される。その他、TBSも日曜の夕方にアニメ番組枠を増やし、夕方16時30分より『七つの大罪 黙示録の四騎士』を放送する。フジテレビは中国のbilibiliと協業し、新たにアニメ枠を新設すると9月26日に発表した。民放各局とも、顕著にアニメに力を入れている様子がわかる。
この背景には、テレビを含む映像産業全体の構造的変化と日本社会の人口動態と経済状況による不可避の流れがある。
放送外収入の重要性が増大
テレビ局がアニメに力を入れる第一の理由は、「放送外収入」の重要性が高まっているからだ。
言い換えると「放送収入」が落ちているということでもある。放送収入とは、放送で得た収入だ。民放のビジネスモデルは無料で番組を見せてCMを見てもらうことにある。つまりCM枠の販売が放送収入だ。
2022年度、在京キー局の放送収入はどこも伸び悩んだ。メディアコンサルタントでテレビビジネスに詳しい境治氏によると、2022年度は在京キー局全て放送収入が前年比ダウン、この傾向は一過性のものではなく、中長期的な傾向としてはっきり表れており、境氏は「放送収入はもう伸びないことがはっきりした」と断じている(※1)。今年から翌年にかけて、ジャニーズ問題によるスポンサー離れもあるだろうから、放送収入はさらに打撃を被る可能性があり、これを立て直すのは容易ではない。
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フジテレビが、中国の総合性動画共有サイトおよび生配信、ゲーム、写真、ブログ、漫画などのエンターテインメント・コンテンツ企業である…
このことは、今までテレビ局を支えてきた事業モデルが通用しなくなってきたことを意味する。テレビ局はこれまでの事業モデルそのものを変えていく必要があるのだ。そこで各局が期待をかけるものの一つが放送外収入だ。
放送外収入は、放送以外の収入全てを指し、映画事業やイベント事業なども含まれる。この放送外収入の中で大きいのはいわゆる「IP(知的財産)もの」によるライツ収入である。中でも、海外配信の権利や映画化や舞台化、グッズ展開などヒットすれば多様な展開で稼げるアニメは、放送外収入を引っぱる存在と目されている。
実際に、テレビ東京はこの分野で成功を収めているので、放送収入が落ち込んでも慌てていない。先ほど、民放5局とも放送収入は前年比マイナスだと書いたが、そのマイナス分を放送外収入の伸びで補った局が2つある。テレビ東京とTBSだ。
テレビ東京は「アニメと配信」を成長エンジンに掲げており、放送収入を補ってあまりある成績を残している。テレビ東京は、利益では「放送事業が15,731百万円、ライツ事業が13,802百万円」でライツ事業の利益が放送に追いつきそうな勢いだ。TBSは実写ドラマの配信展開に積極的であることやハリーポッターのイベント事業などが放送外収入を牽引している(境氏の原稿より)。
つまり、テレビ局の事業立て直しのためにはCM枠販売を中心とした放送収入からの脱却が必要となる。アニメはそれを牽引できるコンテンツと目されているのだ。
テレビ局のグローバル市場参入
アニメは今、日本の映像コンテンツの中で最もグローバル市場を切り開いている分野だ。テレビ各局がアニメに力を入れるもう一つの理由に、グローバル市場参入を急ぎたいというものがある。
これは放送収入の低下ともかかわりのある話だが、国内人口減少を止める有効な手段がなく、国内市場の縮小が決定的な日本では、今後生き残るためには、グローバル市場への進出を求められる。テレビは、多くの人にCMを見てもらうのがビジネスモデルだったが、人口が減れば広告効果は当然減る。国内市場だけではいよいよやっていけないかもしれないという危機感は、テレビ業界にも広がりつつある。
TBS映画・アニメ事業部の辻本珠子氏は、あるイベントで「国内市場だけで回収するこれまでのビジネスモデルに限界を感じていて、グローバル展開しないとまずいという漠然とした空気」が業界内にあると言う(※2)。
テレビ東京は、2022年度はアニメの海外向け展開が23%の伸長という高い成長率を見せている。この分野でテレビ東京は、2010年代前半から海外配信に積極的であり、クランチロールと最初に提携したテレビ局でもある。アニメは放送外収入と海外市場の獲得、この2つを同時に満たせるコンテンツなのだ。
テレビアニメだけでなく、劇場アニメへの取り組みの増加も同じこの2つが理由だろう。日本テレビの谷生俊美プロデューサーは「放送に捉われないコンテンツ制作の必要性」が増す中、アニメ映画はテレビ局にとって「非常に大事」だと言う(※3)。
日本テレビは、昨年末から今年の始めにかけて『劇場版 転生したらスライムだった件 紅蓮の絆編』『かがみの孤城』『金の国 水の国』と立て続けに3本の出資映画を公開している。元々、スタジオジブリや細田守監督の作品などでアニメ映画の出資していた同局だが、さらにその輪を拡げ、テレビアニメの展開にもより力を入れていく。『葬送のフリーレン』はその象徴的な存在にするつもりなのだろう。
やや話がそれるが、つい先日発表された日本テレビのスタジオジブリ買収も、テレビ局にとって放送外収入の重要性が高まっていることと無関係ではないはずだ。