上田慎一郎監督の超ショート動画はなぜバズを生んだ? “半歩先”を考える企画術を聞く

上田慎一郎監督に聞くバズを生み出す技術

“1歩先”ではなく“半歩先”を考え続ける

ーー『カメラを止めるな!』の大ヒット以降、メジャー作品からアニメーション作品に今回のような超短編まで、さまざまな作品を手がけていらっしゃいますが、今後「これをしたい!」といったものは何かありますか?

上田:わからないですね(笑)。中長期計画みたいなものを持たない人間で、目の前の面白いと思ったことをやってきたら今ここにいるという感じなんです。ただ、長編の劇場用映画を軸足にはしておきたいという思いはあります。一方で、本当に難しいのが長編映画と時代の進むスピードがなかなか合わなくなってしまってきていて……。

ーーというのは?

上田:長編映画は企画開始から公開まで何年もかかることが当たり前です。ただ、今はトレンドや時代の空気が目まぐるしく変わっていくじゃないですか。その点、超短編映画は思いついたらその月のうちに世の中に送り出せるので、つぶやくように“いま”の物語を作る楽しさはありますね。

ーー長編映画の題材で“いま”を切り取るのは非常に難しいですね。だからか、かつてよりも、ファンタジーや時代劇(過去に戻る)作品が増えているような気もしていて。

上田:そうなんですよね。アニメーション作品の大ヒットが多いのも、実写作品には感じる“いまとは違う”という感覚がないのも大きいと思うんです。いま最新だと思っているものが、公開時には「えっ古くない?」ってなってしまうのが一番怖いところですね。だから常に“半歩先”を読んで企画を作ることを大事にしています。これが“1歩先”だと、共感度のようなものが下がってしまうので、このバランスが非常に難しい。例えば、『キミは誰?』はChatGPTがリリースされた日に公開されたのですが、いま出しても「ChatGPTを基にした感じでしょ?」と思われてしまう要素が多分にあって、こんなに面白がってもらえなかったと思うんです。

ーー確かに。AI時代になるとますます“いま”のスピードが加速していきそうですね。

上田:長編映画を作るときは、この“半歩先”をいかに現実の社会と合わせることができるかを大事にしないといけないなと思っています。

ーー映画製作においてもAIによって大きな変化が起きそうです。

上田:抵抗がある人もいると思いますが、個人的には何ができるか楽しみです。撮影機材もフィルムからデジタルに変化したことで、いろんなものが効率化されたように、今後も撮影現場に必要なスタッフの数なども少なくなっていくかもしれません。もちろん、人間にしかできない作業/技術は必ずあると思います。AIの進化に伴い、逆に人間にしかできない新たな職種が誕生するかもしれません。2003年に公開された映画『シモーヌ』は、CGで作られた女優が人気になる物語なのですが、それがもうSFではなく現実まであと一歩の状況で。俳優がCGになるとすると、疲れないし、複数の現場にも出現できるし、衣装も髪型も一瞬で変えられるし……と映画/映像作りそのものが一変します。これまでの常識が覆る過渡期にいまの我々はいるのかもしれません。フィルムからデジタルへの変化のときもそうでしたが、どうしても新しいものへの抵抗が起きるのは分かります。ただ、0・100でどっちが悪でどっちが正義ではないものなので、僕はそのときにできる“面白い”ものをやっていきたいと思っています。現場にAIロボがいて、打ち上げの写真の中にもロボットが何台もいて……そんな未来が来ることは単純にワクワクします。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる