下北沢ライブハウス店長が観た『ぼっち・ざ・ろっく!』 結束バンドがいる現場のリアル
2022年10月から12月にかけてTOKYO MXほかで放送されたアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』が放送後も引き続き盛り上がりを見せている。根暗でコミュ障なギタリストの高校生・後藤ひとり、通称“ぼっちちゃん”がひょんなことから女子高生4人組のバンド“結束バンド”を組み、ライブハウスのステージに立つなど憧れだった音楽活動を描いていく青春アニメだ。舞台となるのは、数多くのライブハウスが点在し、多くの有名バンドが下積み時代を過ごしてきた東京・下北沢。劇中では、結束バンドのメンバーはライブハウス・STARRY(スターリー)でアルバイトをしながら活動資金を貯めているが、そのライブハウスのモデルは下北沢に実在する下北沢SHELTERとされている。
ネット上では、自らが経験してきた“バンドあるある”と本作を重ねて思い出を投稿する人も。実際に、Dragon AshのKj、04 Limited SazabysのGEN、ゲスの極み乙女の川谷絵音、凛として時雨のピエール中野ら、プロのバンドマンたちもSNSで本作について投稿している。
バンドを組むまでの過程や、ライブハウスのノルマ制など、本作に詰め込まれた“バンドあるある”のリアルさについて、下北沢のライブハウス近松の店長・梅澤駿平氏に話を聞いた。音楽業界人の心をも掴む『ぼっち・ざ・ろっく!』に魅了される理由に迫る。
一昔前は本当に家でひたすら弾くしかできなかった
ーー『ぼっち・ざ・ろっく!』は何がきっかけで観始めたんですか?
梅澤:Netflixで見つけて『けいおん!』ぽいなと思って観てみたら、下北沢がたくさん描かれていて驚きました。下北沢で働いている人が観たらわかる場所がたくさん使われていて、きちんとと取材して細かく作っているのが伝わってきました。例えば、結束バンドがアー写を撮影していた壁が下北の奥地にあるんですが、駐車場の通り道とかではなく、奥まった駐車場のその奥にある壁なんです。詳しい人しか知らない場所が使われていて、ロケ地の設定も凝っているなと思います。ほかにも、南口商店街、あずま通り、1番街など、下北沢のエリア全般を使っているのが面白いし、街並みもリアルに描かれているなと思いました。
ーーぼっちちゃんがバンドをはじめるまでのきっかけの描かれ方はどう思いましたか?
梅澤:音楽を始める人って、誘われるか自分からやるかのどちらかで、誘われない側の人はやっぱり自分から誘えないんです。今はネットで便利にバンドやりたい人を募ったり、ぼっちちゃんみたいに動画をアップして評価を得られる世界ではあるけれど、そういうのがなかった一昔前の人は、どうしても家でひたすら弾くしかできなかった。だから、たまたまテレビで観たロックスターに憧れて、そこから1人で黙々と弾いている姿からバンドを組むまでの流れは、誰もが経験したことがあることなのかなと思いました。
ーー結束バンドのメンバーがライブハウス「STARRY」でバイトをしていて、ライブハウスという場所についてもリアルに描かれているのかなと感じましたが、実際はどうなんでしょう?
梅澤:結束バンドがSTARRYのステージに立つためにやっていたノルマや出演オーディションって、実はちょっと古いシステムでもあるんですよね。第1話で描かれたライブのオーディションは、2000年代だとやっていたかもしれませんが、今はほぼないと思います。フェス出演のオーディションとかはありますけどね。一方、ノルマ制は今もあって、ライブハウス関係者の間でも話題になるんですが、「うちはノルマを絶対かけません」っていう箱もあれば、「うちはノルマをかけます」っていう箱もあって、賛否両論なんです。『ぼっち・ざ・ろっく!』を観てバンドを始めようと思った人たちにとっては、ライブハウスがちょっと敷居の高い場所だと感じた人も多いかもしれませんね。
ーー『ぼっち・ざ・ろっく!』の視聴者の中には、自身がバンドをやっていた当時と重ねて楽しんでいる人が多い印象を受けます。梅澤さんが目にした『ぼっち・ざ・ろっく!』の感想で印象的だったものはありますか?
梅澤:僕自身、Twitterで『ぼっち・ざ・ろっく!』のことをツイートしたことがありました。現在30代前後の僕たちの世代だと、『けいおん!』を観てバンドを始めようと思った人たちが結構多かったんです。だから、『ぼっち・ざ・ろっく!』が今の子たちにとってそういうきっかけになったらいいなという思いがありました。それと同時に、ライブハウスの店長目線としては、ノルマ制とかがあるので、ライブハウスの敷居が高くなっているのだけは嫌だなという思いもありました。その投稿に対しての反応が結構あって、皆さんの関心が高いんだなと気づきましたし、その投稿に反応してくれてた人たちのTwitterを見たら、「ノルマとかオーディションとか俺らの時代は当たり前だったよな」という人も多くて、周りの今の若い子たちですら「昔の自分を見ているみたいで辛い」みたいなツイートも回ってきましたね。ライブハウスの正解って、場所や人によって違いますし、年代が変われば当たり前に変わっていくものだと思います。ただ、音楽が好きで人が集まる場所ということは変わらないので、バンドマンになりたい人も、ライブを観たい人も、気軽に足を運んでほしいですね。
ーー結束バンドは高校生のバンドですが、現在の下北沢界隈の高校生のバンドシーンはどのような感じなんでしょうか?
梅澤:本当にリアルな話で、高校生のバンドシーンのレベルがここ数年ですごく上がってきていて。最近だと、高校生からバンドを始めた子たちがメジャーデビューしたり、現役高校生のバンドの企画がSOLDしたり。高校生の頃にバンドを組んで、自主企画ができるようになったくらいのバンドが、高校を卒業して1〜2年とかでメジャーデビューするケースも増えている。だから、ライブハウスとしては、結束バンドみたいなバンドは放っておけないし、誰が見つけるか争奪戦の状況で。一方で、まだ高校生だから早く売れてほしいと思わない人たちもいて、もっとのびのびやらせてあげたいという気持ちも理解できる。今の音楽シーンって本当に売れるスピードが早いので、アニメの中ではありますが、結束バンドみたいなバンドは本当に若い人たちの原動力になっていると思います。