上田慎一郎監督の超ショート動画はなぜバズを生んだ? “半歩先”を考える企画術を聞く

上田慎一郎監督に聞くバズを生み出す技術

 『カメラを止めるな!』(2017年)で大旋風を巻き起こしてから早6年。その後も長編映画、アニメーション映画、オールリモートの短編映画など、数々の作品を手がけてきた上田慎一郎監督が新たな“バズ”を生み出した。TikTok、続いてTwitterに投下された超ショート動画だ。『レンタル部下』は、第76回カンヌ国際映画祭の「TikTokショートフィルムコンペティション」でグランプリも受賞。多くの人を釘付けにした企画はどこから生まれているのか。上田監督にバズを生み出す技術、そしてAIと映画製作の未来まで話を聞いた。

超ショート動画に詰め込んだ「起承転結」

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ーーTikTok、Twitterで“バズ”を起こしていた上田監督の超ショート動画ですが、取り組もうと思ったきっかけからお話いただけますか。

上田慎一郎(以下、上田):きっかけは「仕事」なんです。TikTokさんからショートフィルムを盛り上げる企画「ハッシュタグチャレンジ『#ショートフィルム』」のアンバサダーのオファーをいただきまして、そこで「上田さん自身も1本撮りませんか?」と。そこで撮ったのが『キミは誰?』なんです。

ーー前々からご自身の中で温めていた企画ではなかったと。

上田:そうなんです。というのも、長編映画とショートフィルムは“競技が違う”感覚がありまして。実はこのお話をいただくまで、TikTokもほとんど使ったことがなかったんです。そんな自分が皆さんが作ってくれたものを審査する立場になるのはおかしいので、まずは自分で作って何ができるのかを探っていくところからスタートしました。

ーー『TikTokでバズるショートフィルムのつくり方』でお話されていた視聴者の心を掴むための解説などが、ショートフィルム映像への“批評”でものづくりの本質が詰まっていて非常に勉強になりました。

上田:ありがとうございます。YouTubeは自分が欲しい情報を検索して辿り着く能動的なものなのですが、TikTokは受動的なものなんですよね。僕は基本的にダラダラした時間を過ごせないタイプで、観たいものを観たいタイプだったこともあり、TikTokに最初は馴染めなかったんです。でも、調べてみると、いろんなクリエイターが挑戦的なことをしていることがわかって、これは面白いなと価値観を変えられました。これまでもショートフィルム自体は作っていたのですが、それでも10分〜20分ぐらい尺があるもので、ここまで短いものは初めて。たくさんのショートフィルムを観て感覚を掴んだつもりだったのですが、『キミは誰?』の初稿を見せたときは、まだテンポが遅いと言われたんです。「スワイプされますよ」と。そこから編集を変えていって、自分をTikTokだからこそできる形に変えていきました。

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ーー発表された『レンタル部下』『説明台詞オブ・ザ・デッド』、どちらもともすれば「ショートコント動画」のように成りかねないところですが、やはりコント動画とは違う「映像作品」になっているのがすごいと感じました。

上田:コント動画とショート動画の境界線は非常に曖昧で難しいところです。これは僕の中での仮説になってしまうのですが、「起承転結」があることが1本の作品を観た感覚にさせてくれるのではないかなと。加えて「登場人物が変化・成長する」「余韻が残る」などの要素も大事だったのかなと思いました。ちょっと遡ると、『カメラを止めるな!』以前の自主映画制作時代は20分程度の短編映画を作っていたのですが、「長編みたいな短編を作るな」とよく言われていたんです。当時のショートフィルムは、起承転結のすべてを入れるのではなくて、「転結」「承転」「起結」でいいという意見もあって。でも、僕は無理やりそこに全部を詰め込んでいて(笑)。結果的にそれが2分〜3分になっても、変わらず行ったことだったので、それが今回の様なショート動画に繋がったのかなと。

ーー確かに、2作品とも起承転結、特に「結」の部分がしっかりしているのが面白いところですね。

上田:ありがとうございます。『キミは誰?』は3話構成にしていますが、1話だけでも終えることができたんです。でも、それだと「起承」しかなくて、この物語に“人間がいない”と感じてしまって。どうしたって、物語に出てきた人物の人生は続くわけなので、作っていると「なんとかしてこの人物を救いたい!」という思いが湧いてきて。『レンタル部下』もその思いで、あの結末になりました。

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ーーなるほど。そこに“救い”があるのもコント動画とは決定的に違う点ですね。今後もこうした超ショート動画を手がけていくのでしょうか?

上田:ご依頼を受けて『キミは誰?』を作ってみて、手応えがあり、これで終わるのはもったいないなと感じて作ったのが『説明台詞オブ・ザ・デッド』と『レンタル部下』でした。この2作品は撮影はほぼ1日で、編集にかけた時間も1日、脚本も1日で書いたものなので、「この期間、時間が空いているな」と感じたら作れる。これは長編でも変わらないのですが、日々気になったことやアイデアをメモしているので、短編に合いそうだったら作ってみようかなと思っています。2作品ともこんなに反響をいただけるとは思わず、しかも映画ファン以外の方からもたくさん反響があって、すごく嬉しかったんです。だから時間とアイデアさえあれば、また作りたいと思っています。

ーー撮影もiPhoneでされているとのことで、上田さんの作品をきっかけに「自分たちもやってみよう」と思う人も出てくると思います。

上田:かかっている予算としてはキャスト費と小道具ぐらいなので、仲間同士であれば本当にお金をかけずに作れると思います。僕は映画に憧れて、映画が好きでこの道を目指しましたが、これからの世代はTikTokから映像に触れて、そこから映画作りに興味を持つ方もいるかもしれませんね。かつてのような入り口とは違うかもしれませんが、映像、映画作りのきっかけのひとつになれたら非常に嬉しいです。

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