大人気シリーズ『名探偵コナン』にやってきた26年目の確変

『名探偵コナン』にやってきた26年目の確変

 先週末の動員ランキングは劇場版シリーズ26作目となる『名探偵コナン 黒鉄の魚影』が、オープニング3日間で動員217万6407人、興収31億4638万7340円というおそるべき数字を記録してトップとなった。この数字がどれだけすごいかというと、今年最高のオープニング成績であることはもちろんのこと、シリーズ歴代1位となった前作『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』(興収97.8億円)の164%。さらには、国内興収歴代1位の404.3億円を記録した『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』のオープニング成績と比較しても、その68%という数字である。公開1週目にして、公開前まで話題となっていた「シリーズ初の興収100億円突破なるか?」も完全に吹き飛ぶことに。この初速はそれどころの話ではない。

 長年続いてきたシリーズ作品がいきなり確変に入るという点で、記憶に新しいのは『ONE PIECE』シリーズだ。2022年8月に公開された『ONE PIECE FILM RED』は、その3年前に公開された前作『ONE PIECE STAMPEDE』(興収55.5億円)の355%となる興収197億円を記録。『ONE PIECE FILM RED』のオープニング2日間の興収は22億5423万7030円だったので、土曜公開と金曜公開の違いを勘案しても、今回の『名探偵コナン 黒鉄の魚影』はそれ以上のスタートダッシュということになる。

 さすがに、『名探偵コナン 黒鉄の魚影』が『ONE PIECE FILM RED』のように、前作『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』の3倍以上の成績を上げることはないだろう。しかし、今回の前作比164%という驚異的なオープニング成績の要因を分析するならば、一番大きいのは『ONE PIECE FILM RED』同様、これが「『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』以降」の作品であるということだ。

 「『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』以降」の作品。それが意味するのは、当時コロナ禍で喘いでいた全国のシネコンが、これまでの映画興行界の常識では考えられなかったようなスクリーン数や上映回数を同作の公開時に割いて、それが目覚ましい結果を出したことで、そのまま慣例化したということだ。その後の『劇場版 呪術廻戦 0』(興収138億円)や『すずめの戸締まり』(公開中。現時点で興収145億超)などの記録も、「『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』以降」の映画興行界の新しいスタンダードによって生み出された側面は否定できない(1年以上経ったことで忘れがちだが、昨年の『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』公開時は新型コロナウイルスの感染拡大第6波の直後だった)。

 プレコグ社の調べ(※)によると、4月15日、16日の「映画館の座席数シェア」(「延べ上映回数×上映スクリーンの座席数」における各作品のシェア)で、『名探偵コナン 黒鉄の魚影』の座席数シェアは実に49.9%。1館あたりの上映回数は18.4回となっている。つまり、座席数でいうと、先週末の日本全国の新作上映館の半分では『名探偵コナン 黒鉄の魚影』を上映していたとうことだ。ちなみに動員ランキング2位の『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』の座席数シェアは4.6%なので、2位の作品でさえその10分の1以下。公開日が『名探偵コナン 黒鉄の魚影』と重なった『search/#サーチ2』は3.4%、『サイド バイ サイド 隣にいる人』は1.7%、『ハロウィン THE END』は0.5%と、最初から戦意喪失しても無理のない数字。映画館が生き残るか、「多様な上映作品」が生き残るか、時代は仁義なきフェーズへと突入している。

参照

※ https://www.bunkatsushin.com/news/article.aspx?id=223335

■公開情報
『名探偵コナン 黒鉄の魚影(くろがねのサブマリン)』
全国東宝系にて公開中
原作:青山剛昌『名探偵コナン』(小学館『週刊少年サンデー』連載中)
監督:立川譲
脚本:櫻井武晴
音楽:菅野祐悟
声の出演:高山みなみ、山崎和佳奈、小山力也、林原めぐみ、沢村一樹ほか
製作:小学館、読売テレビ、日本テレビ、ShoPro、東宝、トムス・エンタテインメント
配給:東宝
©︎2023 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
公式サイト:https://www.conan-movie.jp

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