『キャプテン・アメリカ:BNW』で3年前の水準に? 迷走していたMCUに復調の兆し

迷走していたMCUに復調の兆し

 2月第3週のランキングは、2023年にTBS系で放送された連続テレビドラマの映画版、劇場版『トリリオンゲーム』がオープニング3日間で動員43万8000人、興収6億1600万円を記録して初登場1位となった。監督(テレビドラマではチーフ演出)、脚本、主要キャスト、そして原作者の稲垣理一郎が監修を務めているのもテレビドラマ版と同じ。連載中のコミックが原作、しかも映画版は時系列的に原作を追い越した後のオリジナルストーリーという難しい企画ながら、興行的にも成功を収めたかたちだ。

 2位に初登場したのは、長編映画としては2024年7月公開の『デッドプール&ウルヴァリン』以来7ヶ月ぶりのマーベル・シネマティック・ユニバース作品となる『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』。オープニング3日間の動員は27万6000人、興収は4億6300万円。このオープニング週末成績は『デッドプール&ウルヴァリン』との興収比で90%。もっとも、『デッドプール&ウルヴァリン』は水曜日に公開された作品で、MCU的にも外伝的な作品だったので、比較対象としては長編映画ではその前の2023年11月公開の『マーベルズ』の方が相応しいだろう。

 『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』のオープニング成績は『マーベルズ』との興収比で143%。その前の2023年5月公開の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』はゴールデンウィーク中の祝日公開だったため正確な数字の比較が困難なのだが、さらにその前の2023年2月公開の『アントマン&ワスプ:クアントマニア』とのオープニング成績の興収比で113%。近年、海外だけでなく日本国内でもMCUのフランチャイズとしての疲弊が盛んに語られてきたがーーというか何よりも本コラムで散々自分も語ってきたがーーとりあえず2022年の『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(オープニング成績の興収比は94%)の時期くらいまでは持ち直してきたことがわかる。

 その『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の内容も直接のシリーズ前作『ブラックパンサー』(2018年)と比べると顕著だったが、今回の『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』も主人公のヒーローが黒人であることからくるアイデンティティ・ポリティクス的なテーマを前景化させることなく(もちろん設定としてそれが重要なものであることには違いないが)、当たり前の前提としてストーリーは展開していき、多くの観客もそれを楽しんでいる。トランプ第二期政権発足以降、ディズニーがこれまでのDEI推進の見直しを進めていると多くの報道が伝えていて、それに対して感情的で党派性に満ちた賛否の声が上がっているが、2010年代後半から2020年初頭までの「アイデンティ・ポリティクスの時代」を通り過ぎたことは、ディズニーにとっても、観客にとっても、一定の意義があったことは認めなくてはいけないだろう。

 一方で、トランプ第二期政権の政策が、現在起こっている急激な変化の「原因」ではなく、ここ数年起こってきた様々な出来事の「結果」であるという視点も必要だ。公開時期の延期だけでなく、その期間に何度かの撮り直しがあったと言われている今回の『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』のエンターテインメントに振り切った姿勢からは、マーベル(とディズニー)は意外にも冷静に時代の変化に対処していることが伺えた。

■公開情報
『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』
全国公開中
出演:アンソニー・マッキー、ダニー・ラミレス、リヴ・タイラー、ジャンカルロ・エスポジート、ハリソン・フォードほか
監督:ジュリアス・オナー
製作:ケヴィン・ファイギ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2025 MARVEL.

『今週の映画ランキング』(興行通信社):https://www.kogyotsushin.com/archives/weekend/

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