『ダンジョンズ&ドラゴンズ』が露にした、欧米とアジア各国の間の「新しい壁」

『D&D』が露にした「新しい壁」

 先週末の動員ランキングは『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』が2週連続で1位、これで公開から5週で通算4週目の1位となった。週末3日間の動員は28万6000人、興収は3億2600万円。公開から31日間の累計動員は277万5880人、累計興収は32億9619万9600円。4月14日公開の『名探偵コナン 黒鉄の魚影』まで強い競合作品もないので、まだまだ数字は伸びそうだ。

 今回取り上げるのは、オープニング3日間で動員7万8513人、興収1億888万2540円をあげて初登場7位となった『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』。世界主要国で同時公開された同作は、北米、イギリス、メキシコ、オーストラリア、イタリア、スペインなどで初登場1位に。オープニングの世界興収は7150万ドル(約94億円)と、アナリストの予測を大きく上回るヒットとなっている(※1)。「それに比べて日本では……」というのは、近年の外国作品の興行で繰り返されてきた状況ではあるのだが、今回は少し様相が違う。

 というのも、同じく世界同時公開された中国や韓国でも『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』は1位を逃していて、それらアジア各国で1位を独走しているのは他でもない日本の『すずめの戸締まり』だからだ。中国におけるハリウッド映画の動員力低下の背景には近年の米中対立を受けての反米感情の広まりも指摘されているが、昨年から『今夜、世界からこの恋が消えても』、『THE FIRST SLAM DUNK』に続いて『すずめの戸締まり』と、日本映画がランキング1位を占拠し続けている韓国では、まるでかつてのハリウッド映画のポジションを日本映画が奪い取ったかのような現象が続いている。

 Netflixを筆頭とするストリーミング環境において、日本では欧米の作品はもちろんのこと国内作品をも押さえて、韓国のテレビドラマが覇権を握って久しい。確かに、作品の質だけでなく作品の製作環境も含め、今や日本の映像界は韓国を追いかける立場であることは事実だが、こと映画だけに関していうなら、近年の韓国映画界は深刻なヒット作不足、資金不足に陥っているという(※2)。日本映画の継続的な大躍進の背景には、そんな深刻な韓国の国内作品事情もあるのだ。

 「ストリーミングサービスの普及期」と「コロナ禍」の3年間を経て、日本だけでなく世界中の映画マーケットは大きな変革期に入っている。そういえば、メジャー配給作品において既にディズニー配給作品では頻繁に起こっていたことだが、東宝東和配給の『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』でも今回劇場パンフレットが制作されていない(原作ゲームの解説という点においても、劇場パンフレットの潜在的なニーズが高い作品にもかかわらず)。そんなところからも配給の弱腰の姿勢が見てとれるが、今回のオープニング成績を突きつけられると、それも無理はないと思わずにはいられない。

参照

※1 https://deadline.com/2023/04/dungeons-and-dragons-honor-among-thieves-john-wick-china-global-international-box-office-1235315760/
※2 https://v.daum.net/v/20230401084354164

■公開情報
『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』
全国公開中
監督・脚本:ジョン・フランシス・デイリー、ジョナサン・ゴールドスタイン
出演: クリス・パイン、ミシェル・ロドリゲス、ジャスティス・スミス、ソフィア・リリス、ヒュー・グラント
配給:東和ピクチャーズ
©2022 PARAMOUNT PICTURES. HASBRO, DUNGEONS & DRAGONS AND ALL RELATED CHARACTERS ARE TRADEMARKS OF HASBRO. ©2022 HASBRO.
公式サイト:https://dd-movie.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/Paramount_Japan
公式Instagram:https://www.instagram.com/paramount_japan/

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