『らんまん』子役パートが果たす“伏線”の役割 坂本龍馬&池田蘭光が物語のテーマを示す

『らんまん』子役パートが果たす伏線の役割

 人生は伏線回収の連続だ。それはフィクションほど鮮やかなものではないかもしれないが、過去の体験やそこで感じた思いが無意識のうちに後の行動へ繋がっていることはよくある。特に幼少期は一人ひとりの土台を作る重要な時期。NHK連続テレビ小説、通称“朝ドラ”で描かれる主人公の幼少時代もそう。案外、物語全体を貫く大事なテーマは最初の数週で提示されているものだ。

 例えば、2020年度後期放送の『おちょやん』では、第1週にのちに喜劇女優として名を馳せる主人公・千代(杉咲花/幼少期:毎田暖乃)の波乱万丈な人生の幕開けが描かれた。早くに母親を亡くし、まだ幼い弟と、まともに仕事もしないくせに酒と博打に溺れる父親の面倒を見なければならなくなった千代。そこに父親が新しい母親を連れてきて、彼女はお払い箱のように奉公へ出される。文字だけで見ればエグいほどのしんどさだが、本作は千代を“かわいそうな子”と思わせるような描き方をしなかった。

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甲斐性なしの父と反りが合わない継母を大切な弟のために“捨て”、9歳でたった一人奉公に出た千代(毎田暖乃)。『おちょやん』(NHK…

 千代は父親に「うちは捨てられたんやない。うちがあんたらを捨てたんや」と言い放ち、胸を張って奉公先に出向く。そして、奉公先の芝居茶屋がある芝居の街・道頓堀で彼女は演劇の面白さを知るのだ。その先も千代は何度も悲劇に見舞われるが、幼少期のたくましさが失われることは決してなかった。悲劇を自らの力で喜劇に変えていく千代の姿を通し、どんな人生も笑いと涙にあふれた素晴らしい喜劇であることを教えてくれた本作。そんな物語の方向性は、やはり第1週ですでに示されていたのだ。

 3月末に最終回を迎えたばかりの『舞いあがれ!』も、東大阪で生まれた主人公の舞(福原遥/幼少期:浅田芭路)が、五島で暮らす祖母・祥子(高畑淳子)の元を訪れる幼少期を描く中で物語の核に触れていた。運動会のリレーで転倒してしまい、恥ずかしい思いをした頃から原因不明の熱に悩まされていた舞。無理をするとすぐに熱を出し、母親を心配させてしまうため、彼女は自分の気持ちを抑えるようになっていった。

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 そんな舞に「失敗は悪いことじゃない」と教えてくれたのが祥子だ。失敗してもいいから色んなことに挑戦し、出来ることを少しずつ増やしていく。人力飛行機の記録飛行、航空学校での訓練、両親が経営する町工場の経営立て直し、起業、空飛ぶクルマの開発など、どんな難題に対してもいろんな方法を試し、失敗と改善を繰り返しながら解決方法を探る舞の“トライアンドエラー”の精神は確実に五島で一時期暮らした幼少期に培われたもの。第1週で「どがん向かい風にも負けることなくたくましく生きるとぞ!」と舞に伝えた祥子が、最終回で空飛ぶクルマを操縦する舞の背中に「向かい風に負けんかったね」とささやく台詞の回収も見事だった。

 そして、森優理斗から小林優仁へ。2人の子役がバトンを繋いだ現在放送中の朝ドラ『らんまん』の主人公・万太郎の幼少期編で描かれているのは、“抑制”と“解放”だ。物語の舞台となる高知県佐川の領主である深尾家の御用係を代々務め、名字帯刀が許された由緒正しき槙野家の長男として生まれた万太郎。そんな彼は生まれてきた時から、二つの宿命を背負っていた。一つは少し走っただけで熱を出して寝込んでしまう身体の弱さ。もう一つは槙野家が営む造り酒屋「峰屋」の跡取りであることだ。

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