2022年の年間ベスト企画
田幸和歌子の「2022年 年間ベストドラマTOP10」 ドラマ界に起きた大きな地殻変動
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2022年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は、地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出。第16回の選者は、テレビドラマに詳しいライターの田幸和歌子。(編集部)
1.『おいハンサム!!』(東海テレビ・フジテレビ系)
2.『鎌倉殿の13人』(NHK総合)
3.『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)
4.『空白を満たしなさい』(NHK総合)
5.『17才の帝国』(NHK総合)
6.『拾われた男』(ディズニープラス/NHK総合)
7.『恋せぬふたり』(NHK総合)
8.『エルピスー希望、あるいは災いー』(カンテレ・フジテレビ系)
9.『あなたのブツが、ここに』(NHK総合)
10.『シジュウカラ』(テレビ東京系)
長引くコロナ禍による在宅時間の増加で「見逃し配信」が普及する中、各局がドラマ枠を増設・BS事業への参入も相次ぐなど、ドラマ界に大きな地殻変動が起こった2022年。各局が配信を意識し、「日本ならではの作品」「海外にも輸出できる作品」を意識するようになったことで、良作が多数生まれたことはドラマ好きにとって喜ばしい限りだ。
「地殻変動」の中でも大きなトピックとして注目すべきは、カンテレの佐野亜裕美プロデューサーが手掛けた2作『17才の帝国』と『エルピスー希望、あるいは災いー』。佐野PがTBSを退社後、フリーランスだった頃に企画が進んだことで、カンテレに在籍しながらNHKドラマを作るという異例の経緯で生まれた『17才の帝国』は、“政治”をテーマとし、政治に関心の薄い若い層に観てもらう狙いから『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』『けいおん!』などの吉田玲子が脚本を手掛け、アニメーション+実写の中間くらいの質感で描かれた快作だった。
世界観の説明をあまりし過ぎないところからスタートする構成も、アニメに近い。それでいて、星野源をはじめ、生身の人間が演じるからこそ描くことのできる葛藤や悲哀の生々しさが胸を打つ作品でもあった。
そして『エルピス』は、佐野PがTBS在籍時の2016年頃から脚本家・渡辺あやと6年がかりで作り上げた、実在の複数の事件に着想を得て描かれた社会派エンターテインメント。テレビ局の暗部をテレビドラマで描くこと、実在の政治家を連想させる人物や事件が登場することなど、終始ヒリヒリする作品だったが、特に生々しかったのはヒロインが幾度も変節するリアリティ。そして、大きな権力を前に、現実的な着地点を選ぶという「希望」と引き換えに、多くのことが闇に葬られたままとなった結末。その中で最後に「希望」を感じさせるのが、テレビというメディアではなく、覚悟のある個人(紙媒体)やネットメディアだという強烈な皮肉には、ネットニュース記者の息子、テレビ局報道マンの父、新聞記者の祖父という3世代マスコミ一家を描いた大石静脚本による『和田家の男たち』(2021年/テレビ朝日系)を思い出した。