田幸和歌子の「2022年 年間ベストドラマTOP10」 ドラマ界に起きた大きな地殻変動

田幸和歌子の「2022年ベストドラマ」

 もう一つ、2022年の大きな特徴として挙げたいのは、コロナ禍で人との触れ合いが減少する中、令和の新しいホームドラマの名作がたくさん生まれたこと。

 『拾われた男』は俳優・松尾諭の自伝的エッセイを原作とし、足立紳脚本×仲野太賀主演でドラマ化したもので、回を重ねるごとに青春ものからシンデレラストーリー、ホームドラマへと、その色合いを変え、思いがけない場所に連れて行ってくれる非常に贅沢な作品だった。

 ワンポイント出演も含めて豪華すぎる出演陣に「NHKだからやれること。ズルい」という声も一部にはあったが、そもそもこれは6月にNHKBSプレミアムで放送及びディズニープラスで配信された作品をNHKが買う形で放送されたもの。ちなみに、テレビ東京×PrimeVideoの『僕の姉ちゃん』や、テレビ東京制作×Netflixの『ヒヤマケンタロウの妊娠』など、先行配信を経てテレビ東京で放送されるケース、『スナックキズツキ』『フルーツ宅配便』などを手掛けたテレビ東京の濱谷晃一プロデューサーが原案・プロデューサーなどを務める『家電侍』がBS松竹東急で放送されるケースなど、テレビ東京が企画・制作を手掛けて配信やBS事業にコンテンツ提供やコラボをするドラマ作りも増えている。今後は配信の隆盛により、こうした配信サービスやBS制作と地上波ドラマ枠が手を組む例がますます増えそうである。

『拾われた男』

 別の要素とホームドラマを掛け合わせる良作も生まれた。

 藤本有紀脚本のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』は3世代の親子の100年にわたるファミリーヒストリーだったが、視聴者をグイグイ惹きつけたのは、ホームドラマであるとともに、初代ヒロイン・安子(上白石萌音)とその娘で生き別れになった二代目ヒロイン・るい(深津絵里)とを結びつけるミステリー要素が伏線たっぷりに組み込まれていたこと。

 そして、NHK大河ドラマに「ホームドラマ」を持ち込んだのが、三谷幸喜脚本の『鎌倉殿の13人』だ。北条家の牧歌的なホームドラマから始まり、望まない運命に巻き込まれ、翻弄されながらも残酷なダークヒーローとなっていった主人公が、最終的にホームドラマの中に戻って来る構成は実に見事だった。

 さらに、良作・意欲作だらけの2022年で1位に推したいのが、吉田鋼太郎主演の『おいハンサム!!』だ。

 伊藤理佐の漫画の「いいとこどり」を『ランチの女王』(フジテレビ系)などの山口雅俊による脚本・演出・プロデュースで実写化した作品で、吉田演じる「令和の頑固おやじ」源太郎と、夫を立てつつも一家を取り仕切る妻・千鶴(MEGUMI)、男を見る目のない3人の娘(木南晴夏、佐久間由衣、武田玲奈)たちの会話劇がとにかく面白い。

 どうでもいい内容をダラダラ見る「日常系」に見えて、絶妙な角度の共感とボケ、食に対する笑える偏見の連続で、そんな中で不意打ちに人生の本質を突いてくる。

 例えば、秀逸なのは冷蔵庫とネギと人生について考えさせられるエピソード。約7センチの残りのネギについて、源太郎が「人生でネギを使い切ることは珍しい。いつもうまいこと使い切って次に行くことはできるのか?」と嘆くと、千鶴は言う。

「使い切るってそんなに大事なこと? 忘れたりすることが必ず起きる……それが人間よ」

 ここに退職する同僚の話や、娘たちの恋の話が絡み合う、手練れならではの構成となっている。一家でトランプをしているだけでも面白いし、「五番街のマリーへ」1曲だけでこすりまくり、笑いをとりまくることができるのは、役者+脚本+演出全てが揃っているからこそ。

 笑いアリ涙アリのバランスが抜群で、いつでも何度でも繰り返し観たくなるホームドラマが令和に生まれたことは、非常に嬉しい収穫だ。

■発売情報
『おいハンサム!! 〈ディレクターズカット版〉』Blu-ray&DVD
発売中
Blu-ray BOX:23,980円(税込)
DVD BOX:18,480円(税込)
発売元:日本映画放送/東海テレビ放送
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング

出演:吉田鋼太郎、木南晴夏、佐久間由衣、武田玲奈、MEGUMI
企画:市野直親(東海テレビ)
原作:伊藤理佐『おいピータン‼』『おいおいピータン‼』(講談社『Kiss』連載)
Special Thanks:『渡る世間はオヤジばかり』(講談社 KissKC所載)、『チューネン娘。』(祥伝社フィールコミックス)、 『あさって朝子さん』(マガジンハウス)
脚本・演出:山口雅俊(ヒント)
エグゼクティブプロデューサー:宮川朋之(日本映画放送)
プロデューサー:山口雅俊(ヒント)、遠山圭介(東海テレビ)、塚田洋子(日本映画放送)、藤井理子(日本映画放送)、森正文(ヒント)
©東海テレビ/日本映画放送

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