2022年の年間ベスト企画
小野寺系の「2022年 年間ベスト映画TOP10」 “人間がどう生きるのか”という思索へ
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2022年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、映画の場合は、2022年に日本で公開された(Netflixオリジナルなど配信映画含む)洋邦の作品から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第2回の選者は、映画評論家の小野寺系。(編集部)
01.『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』
02.『私ときどきレッサーパンダ』
03.『ハウス・オブ・グッチ』
04.『コーダ あいのうた』
05.『女神の継承』
06.『呪詛』
07.『X エックス』
08.『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』
09.『アンネ・フランクと旅する日記』
10.『マイスモールランド』
2022年は、ロシアによるウクライナ侵攻と核戦争の危機という、おそろしい事態に突入した年として記憶されることになるだろう。それも、人類の文明が今後存続できればの話である。
ロシアの愚行や、その覇権主義、排外主義がナチスドイツの再来だということを思い知らせてくれるのが、アニメーション映画『アンネ・フランクと旅する日記』だった。アンネや多くのユダヤ人に起きた事態を、古き日の悲劇として描くのでなく、現在の諸問題に連結したものだとして表現した内容は、いま最も観客にうったえかけるべきメッセージだと思える。
そしてもう一つ、喫緊の問題として考えなければならないのが、持続可能性の諸課題だ。ドン・ホールとクイ・グエンのコンビによる『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』は、そこに一石を投じる重要作。このような責任を負ってくれる意志を見せてくれる限り、巨大な帝国となったディズニーのアニメーションを支持できるのだ。
映画界のセクハラ、パワハラ問題、インターネット上での女性やマイノリティへの集団的なヘイト行為、陰謀論などが後を絶たないように、世界が混迷のなかにあり、人々が愚かな行為を繰り返すことで世界や社会が不可逆的に悪化していくなかで、それらを無視した作品の表現の細やかさを楽しむ余裕は無くなってきているというのが、正直なところだ。むしろ作り手の側が、このようなひどい問題が目の前で起こりながら、全くそれとは無関係な作品づくりができるという態度の方に違和感を覚える。
その意味で、およそ10年前に放送されたTVアニメシリーズ『輪るピングドラム』が、2022年の首相殺害事件を引き金に、これまで隠蔽されていた政界と宗教団体との繋がりと「宗教2世問題」を、“繰り返される”重大問題として描いていたことは驚嘆に値するだろう。その総集編として公開された、『劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM [前編]君の列車は生存戦略』、『劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM [後編]僕は君を愛してる』は、最も見事に日本を描き得たことを示す2作品となった。
同時に、日本でやっと『マイスモールランド』のような、入管問題や移民問題、差別問題を、よけいな夾雑物なく、そのまま描いてくれる劇映画が出てきてくれたことは、希望というよりも、なぜあらゆる問題が山積する日本において、こういった、描かねばならない問題を題材とした作品がまだまだ稀有な存在なのかという、異様な状況が、逆にあぶり出されることになった。