『初恋の悪魔』徹底された多角的な視点 林遣都「他人の作ったゲームをしないこと」の意味
坂元裕二脚本の『初恋の悪魔』(日本テレビ系)は、捜査権を持たない4人の警察関係者が事件について考察する姿を描いた異色の刑事ドラマだ。第4話では、世界英雄協会と名乗るヒーローの仮面を被った男が、社会のマナーを守らない一般市民を小さな矢で狙うという劇場型犯罪が描かれた。
事件を起こした後、犯人はライブ配信で「さぁ、ゲームの始まりです」と宣言。その後、次の犯行のヒントとなる「数字にまつわるクイズ」を出す。その振る舞いはサイコサスペンスの犯人の典型といった感じで、刑事ドラマとしてはド真ん中の展開だ。
これまでの事件では蚊帳の外だった4人も、数字に強い小鳥琉夏(柄本佑)が刑事課の新人刑事・服部渚(佐久間由衣)からクイズで出された暗号解読の強力を求められたことをきっかけに、積極的に事件に関わるようになる。しかし、クイズを解いて犯行現場に向かうという刑事ドラマ的な物語こそが、大きな罠だった。
暗号から導き出された公園へと向かった服部は矢で射たれ、服部の敵討ちという正義感に駆られて、次のクイズを解いて廃墟に向かった馬淵悠日(仲野太賀)、摘木星砂(松岡茉優)、小鳥の3人も矢を搭載したドローンに狙われる。
その後、犯人に翻弄されながら、必死でクイズを解こうとする3人に対して鹿浜鈴之介(林遣都)は「きみたちはバカか?」と言った後、こう続ける。
鹿浜「あきれたものだ。君たちはゲームで必ず勝つ方法を知らないのか?」
小鳥「そんなものがあるのか?」
鹿浜「他人の作ったゲームをしないことだ」
坂元裕二は、社会のルールが理解できずに苦しんでいる人々を描くことが多い。映画『花束みたいな恋をした』、連続ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)といった作品では「じゃんけんのルールがわからない」ということを通して、登場人物の生きづらさが表現されていた。
「じゃんけんのルール」とは、人々が当たり前だと思いこんでいる社会的通念のことで、鹿浜の言い方を借りるなら「他人の作ったゲーム」と言えるだろう。
鹿浜もまた、社会で当たり前とされていることに乗ることができない人間だ。しかし彼には、自分は外側にいるという自覚がある。だからからこそ社会通念から自由で「他人が作ったルール」にいかに人々が縛られていのかが見えている。