A24発、話題のマルチバース映画が1億ドル突破 北米No.1は『DCがんばれ!スーパーペット』

 北米の夏休み興行もいったん小休止、というべきか。7月29日~31日の北米週末興行ランキングは、DCコミックスのアニメーション映画『DC がんばれ!スーパーペット』がNo.1……なのだが、週末3日間の興行収入は2300万ドル。ワーナー・ブラザースが製作費9000万ドルを投じた人気ブランドの最新作としては厳しい数字と言わざるをえない。

 『DC がんばれ!スーパーペット』には悪い気もするけれど、北米の週末興収情報を毎週お伝えしている本稿としては、それ以上に注目したいトピックがある。『ミッドサマー』(2019年)、『ライトハウス』(2019年)をはじめ、数々の力作・野心作で知られる製作会社・A24の快挙だ。3月25日に北米公開された『Everything Everywhere All at Once(原題)』が、A24史上初となる世界累計興収1億ドルを突破したのである。

 過去にも本作については何度かご紹介してきたが、まだ日本公開が発表されていない以上、改めて作品の概要からおさらいしておきたい。ミシェル・ヨー演じるイヴリン・ワンは、経営に苦しみ、国税局の監査を受けるクリーニング屋のオーナー。しかしある時、イヴリンは、マルチバースの滅亡を防ぐため、並行世界を生きる別の自分と繋がらなくてはならないことを知るのだ。アクション・SF・冒険・家族ドラマなどが詰まった本作は、Rotten Tomatoesで95%フレッシュを叩き出す高評価となっている。

 マーベル・シネマティック・ユニバースは先日発表された「マルチバース・サーガ」のまっただ中にあるが、本作は偶然にも同時期にマルチバースを描いた一作。監督は『スイス・アーミー・マン』(2016年)を手がけた“ダニエルズ”ことダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート監督。製作には『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)のアンソニー&ジョー・ルッソも名を連ねている。

Everything Everywhere All At Once | Official Trailer HD | A24

 これまでA24作品の最高興収を誇っていたのは、『ヘレディタリー/継承』(2018年)の8020万ドル。現時点で『Everything Everywhere All at Once』の米国興収は6890万ドル、海外興収は3110万ドルで、累計興収は1億ドルの大台に着地する。北米週末ランキングでは第14位だが、A24は7月29日に上映劇場を1490館追加し、約8分間の未公開映像などを含むエクステンデッド版を拡大再公開。新たに3日間で65万ドル(前週比+589.3%)を稼ぎ出している。

 『Everything Everywhere All at Once』の製作費は約2500万ドルといわれているため、本作はコロナ禍のインディペンデント作品として稀有な、劇場公開だけで黒字化を実現した作品だと考えられる。作品の高評価が口コミで広がり、ゆっくりと公開規模を広げていった戦略も成功だったのだろう。何はともあれ、A24の歴史と現在を知る上で欠かせない、また北米ポップカルチャーの一端を担っている一作であることは確か。一刻も早く日本でのリリース予定が決まることを願うばかりだ。

 話題を北米週末ランキングに戻すことにしよう。ジョーダン・ピール監督作『NOPE/ノープ』から首位を奪った『DC がんばれ!スーパーペット』は初動記録2300万ドルだが、これは事前の「2500万ドル以上」という予測に及ばなかった。またアニメーション映画としては、4月22日に北米公開された『バッドガイズ』の2395万ドルと同等の成績である。

 問題は、『DC がんばれ!スーパーペット』が“動物もの”とはいえDCブランドの最新作であること、また話題作が並ぶ上昇気流の中で公開されたことだ(『バッドガイズ』はコロナ禍からの回復を各社が模索していた時期の公開だった)。そして、ワーナー作品としては、2021年7月に劇場・配信で同時公開された『スペース・プレイヤーズ』の初動成績3105万ドル(製作費1.5億ドル)にも届いていない。ワーナー・ブラザース・ディスカバリーの新たな首脳陣は、この結果をどのように評価するか。

 一方で本作の強みは、観客から高い評価を受けていることだ。Rotten Tomatoesでは批評家スコア72%、観客スコア89%を獲得。劇場の出口調査に基づくCinemaScoreでは「A-」評価となった。『バッドガイズ』や『SING/シング:ネクストステージ』(2021年)と同様、口コミのロングランで興収成績をどんどん伸ばしていく可能性もある。

 声の出演はドウェイン・ジョンソン、ケヴィン・ハート、ケイト・マッキノン、ジョン・クラシンスキー、そしてキアヌ・リーブス。現時点での海外興収は63市場で1840万ドル、世界累計興収は4140万ドルだ。日本公開は8月26日予定。

 また、第2位にランクダウンした『NOPE/ノープ』は3日間で1854万ドルを記録。先週末からの下落率は-58%と、監督の前作『アス』(2019)よりも大きいため、ここからどこまで粘れるかが問われる。しかしながら「下落率は-60%を超えるのでは」とも予想されていたため、状況的には善戦と言えるか。公開後10日間で8058万ドルという成績も決して悪くない。8月中旬からの海外公開にも注目だ。

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