『ファーストキス 1ST KISS』が届けた極上の“寂しさ” 松村北斗だから成立した“2度”の好き

『1ST KISS』が届けた極上の“寂しさ”

 永遠のラブストーリーなんて、本当に存在するのだろうか。『カルテット』(TBS系)の真紀(松たか子)が「人生ってまさかなことが起きるし、起きたことはもう元には戻らないんです」と言うように時間は巻き戻せないし、同作品で家森(高橋一生)が言う「結婚ってこの世の地獄ですよ」という台詞が頭に刷り込まれている脚本家・坂元裕二のファンは、映画『ファーストキス 1ST KISS』の主人公・カンナ(松たか子)が言う「結婚ってお互いが教官の教習所」「恋愛感情と靴下の片方はいつかなくなります」という台詞にもウンウンと頷かずにはいられない。

 ラジオから聞こえる結婚準備アプリのCMの「一生恋していたいから、結婚した」に苦笑し、本当はうまくいっていなかった硯駈(松村北斗)とカンナの「夫婦愛」をテーマに、駈の死を題材に「令和に甦った人の優しさ」を描こうとするドラマの企画に失笑するカンナの気持ちに自然と同調できてしまう観客がその後目の当たりにするのは、まさに彼女が笑ったCMやドラマ企画を地で行くような、真っ直ぐな愛の奇跡であり軌跡だった。

 『花束みたいな恋をした』が「永遠には続かない若い2人の恋」というほろ苦い現実を突きつけたなら、『ファーストキス 1ST KISS』が見せるのは、眩しいほどの大人の夢だ。何度でも今は亡き夫と出会った日にタイムトラベルできる彼女は、キュンとせずにはいられない若い夫の口から出た言葉を何度だって聞き直すことができるし(もちろん限りはあるのだけれど)、「それ以上に奇跡」であるところの結婚後も続く「好き」の物語はちゃんと存在するという夢(あるいは誰かの「当たり前」)がそこにある。「夢」を通して観客は何を見るのか。本作は、他でもない「今」の自分を肯定し、そこにある「寂しさ」の正体そのものを詳らかにするための映画なのだと思う。

 映画『ファーストキス 1ST KISS』は、『最高の離婚』(フジテレビ系)、『カルテット』、『花束みたいな恋をした』の脚本・坂元裕二のオリジナル劇場映画である。監督は、『ラストマイル』、『グランメゾン・パリ』、『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)の塚原あゆ子。主人公・硯カンナを演じるのは『カルテット』『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)など、坂元作品のミューズとも言える松たか子である。そして、離婚届を出す日に事故死したカンナの夫・硯駈を演じるのは三宅唱『夜明けのすべて』や岩井俊二『キリエのうた』など優れた作家の作品に立て続けに出演する松村北斗。

 まず特筆すべきは2人の好演である。本作は、夫を事故で亡くしたカンナが、ある時、夫と初めて出会った15年前の夏にタイムトラベルが可能になり、彼の死なない未来を作るために奔走する話だ。松たか子演じるカンナが大型犬に囲まれる場面が繰り返されるたび、笑い声で満たされていった劇場は、後半、松村北斗演じる駈に2度泣かされて、気づいたら啜り泣く声でいっぱいになっていた。

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