片桐健滋、沖田修一、山下敦弘、菊地健雄 テレ東深夜ドラマの映画監督起用の歴史と魅力

テレ東深夜ドラマの映画監督起用の歴史と魅力

 ドラマも、監督で観てはどうだろうか。

 6月から放送が始まった『ザ・タクシー飯店』(テレビ東京系)は、演出を映画監督が行っていることが観始めた1つのきっかけになっている。

 タイトルや内容、キャストだけでなく、脚本家でドラマを観るか観ないか判断する視聴者は多い。他にも、撮影や音楽を担当する人を意識しているかもしれない。しかし筆者は、演出を、それも映画監督によるものを、ドラマ選びの基準の1つとしている。

 映画監督がテレビドラマの演出を担当すると言うと、違和感があるかもしれない。だが、もともとテレビの誕生により、映画業界からテレビ業界に多くの人が流入したため、映画監督出身のテレビ演出家(ディレクター)は数多く存在した。

 しかし今では、多くのドラマの演出を、テレビ局所属のディレクター、または制作会社のディレクターが担当している。2022年4月期のドラマも、その多くが、そうしたテレビ局や制作会社所属のディレクターによる演出だ。

 そうした状況に風穴を開けたのが、テレビ東京の深夜ドラマだ。特にここ数年は、映画をメインフィールドとして活躍する映像作家を積極的にドラマ演出に起用している。

 例えば、人気不良マンガを原作とした『クローバー』(2012年)の演出は、『SR サイタマノラッパー』(2009年/テレビ東京系)、『22年目の告白-私が殺人犯です-』(2017年)の入江悠監督。賀来賢人、三浦貴大、有村架純ら現在の人気俳優が、ブレイク前に出演している。

 近年では、映画化もされた『宮本から君へ』(2018年/テレビ東京系)の演出は、全話を真利子哲也監督が担当している。柳楽優弥や菅田将暉、小松菜奈らが出演したハードな暴力シーンも多かった映画『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年)の監督で、暴力シーンや、印象的な長尺ワンカットシーンが映されていた。『ひとりキャンプで食って寝る』(2019年/テレビ東京系)は、『ウルトラミラクルラブストーリー』(2009年)、『いとみち』(2021年)などの横浜聡子監督と、『パビリオン山椒魚』(2006年)、『南瓜とマヨネーズ』(2017年)などの冨永昌敬監督が交互に演出を務めるユニークな形式をとった。共に個性的な作風を持つ映画監督だが、回ごとに明確にテイストが(メインキャストも)異なりながらも、全体としてはまさしく「ひとりキャンプで食って寝る」話が描かれ続けたのは連続ドラマならでは。

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 他にも、『フルーツ宅配便』(2019年/テレビ東京系)は、『日本で一番悪い奴ら』(2016年)、『孤狼の血』(2018年)の白石和彌監督と、『南極料理人』(2009年)、『横道世之介』(2013年)の沖田修一監督が演出を担当。『コタキ兄弟と四苦八苦』(2020年/テレビ東京系)は、『リンダ リンダ リンダ』『オーバー・フェンス』などの山下敦弘監督、『生きるとか死ぬとか父親とか』(2021年)は、『溺れるナイフ』(2016年)、『ホットギミック ガールミーツボーイ』(2019年)の山戸結希監督と『ハローグッバイ』(2017年)、『体操しようよ』(2018年)の菊地健雄監督が演出を担当した。

 こうした映画監督を演出に起用するドラマには、特定のプロデューサーが関わっていることが多い。『宮本から君へ』、『ひとりキャンプで食って寝る』は大和健太郎が、『フルーツ宅配便』、『コタキ兄弟と四苦八苦』は濱谷晃一が、そして、『生きるとか死ぬとか父親とか』は阿部真士がプロデューサーとして携わっている。

 ちなみに、阿部が2019年のインタビューの中で転機と語っていたのが、映画化もされたドラマ『モテキ』(テレビ東京系/2010年)。

 「それまでも優秀なクリエイターの方が作品を作ってくださっていたんですが、20作目(『モテキ』)からぐっと変わって、『みんな!エスパーだよ!』の園子温監督や、『勇者ヨシヒコ』シリーズの福田雄一監督、その他、映画系の監督が『うちでやりたい』と言ってくださるようになりました。挙手していただくこともありますが、『他の局だとできないですけど、うちだったらできます』と口説いて、監督が決まるとそれに伴って出てくださるキャストの方も増えていくんです」。(※1)

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