片桐健滋、沖田修一、山下敦弘、菊地健雄 テレ東深夜ドラマの映画監督起用の歴史と魅力

テレ東深夜ドラマの映画監督起用の歴史と魅力

 そんな阿部がプロデューサーを務め、『ルームロンダリング』(2018年)、『酔うと化け物になる父がつらい』(2019年)の片桐健滋監督が演出(スタッフリスト上の表記は「監督」)を担当しているのが、現在放送中の『ザ・タクシー飯店』だ。

 本作は、昔ながらの個人経営の中華料理店「町中華」を愛するタクシードライバーが、同僚や様々な乗客との会話、町中華の名店で料理を楽しむ、テレビ東京お馴染みの「飯テロ」グルメドラマ。主演の渋川清彦、共演の宇野祥平ともに『ルームロンダリング』、『酔うと化け物になる父がつらい』に出演している。『酔うと化け物になる父がつらい』の中で悲しい別れを遂げる2人を思い出すと、『ザ・タクシー飯店』での仲睦まじい2人にグッと来てしまう。

 映画監督ならではの演出と感じたのは、タクシーで街に出かける前の、八巻孝太郎(渋川清彦)、増保健壱(高木雄也)、東屋敷要(宇野祥平)、整備士の山さん(神戸浩)による何気ないやりとりの、ほぼワンカットでの撮影。タクシー内のシーンにおける窓の外の景色は、映画さながらの合成加工。テレビ東京深夜のグルメドラマシリーズの中でも、映像へのこだわりを強く感じる作品だ。

 また、本作が特徴的なのは、その食事シーンだ。『孤独のグルメ』(テレビ東京系)では、井之頭五郎(松重豊)はほとんど喋らない。「孤独」なのだから当たり前だが、店員とも、必要最低限の注文やレシピの確認以外は喋らない。渋川清彦が『孤独のグルメ』以外でお気に入りと言っていた『絶メシロード』(テレビ東京系)でも、ほとんど喋らない。しかし、『ザ・タクシー飯店』はよく喋る。タクシーに乗せてきた客と、時には客同士が、町中華を舞台に、よく喋る。作中では、全くコロナ禍が意識されておらず、町中華という空間の懐かしさも相まって、まるでパラレルワールドのようだ。

『ザ・タクシー飯店』

 そして、食事の最中に挟まれる調理シーンや注文を受けるシーンで、店員役を担当するのは、それぞれの町中華の店員さん本人。本来は『孤独のグルメ』のように、店員さんもお客も役者さんが演じた方が楽だろう。演技を求める必要がなく、出演の有無によって撮影場所として使うこと自体を断られるリスクすらある。しかし、本作では、実際の店員さん自身の調理を、そして注文への受け答えを選んだ。そこには、映像作家としてのこだわりが有るように思える。第3話の「元祖ハルピン」の店長さんが、美味そうに餃子を食す渋川清彦、もとい八巻と山下リオを観た時の笑顔は、決して役者に演じることができない。

 グルメドラマの多くは、カメラワークも演出も特別にこだわっているようには見えない作品が多い。キャスティングから演出に至るまで、ここまでこだわっている本作は、テレビ東京としても新たなチャレンジなのではないだろうか。渋川清彦が本作に纏わるインタビューの中で「撮影前から『このチームで続編をやりたい!』と言っていて、撮影の最中もずっと言っていたんですよ」と発言していた通り、早くもシーズン2を期待したい。続くシリーズの中で、映画監督としてのこだわりを見せ続けてほしい。(※2)

 海外ではアメリカを中心に、著名な映画監督がテレビドラマの演出を担当する傾向がある。その舞台の多くは、予算の自由が効き、放送時間にも縛られない配信ドラマ。日本でもNetflixやAmazonオリジナルなどで映画監督を起用したドラマは制作されているが、テレビ東京の深夜以外の地上波では、その機会は少ない。個人的には、脚本・演出を是枝裕和監督が務めた『ゴーイング マイ ホーム』(2012年/カンテレ・フジテレビ系)が好きだったが、同様の知名度を持つ映画監督によるドラマは、なかなか後に続いていない。火曜22時という時間にもかかわらず、平均視聴率が7.9%と振るわなかった影響もあるかもしれないが、世界的に映画業界とドラマ業界の融解が進む中で、日本でも同様に映画業界から越境してドラマ業界に進出する映画監督がさらに増えることを、1人のドラマ好きとして期待したい。

 ほかにもテレビ東京で放送中のドラマで、映画監督が演出を担当する作品を紹介。『量産型リコ -プラモ女子の人生組み立て記-』の演出は『死にたすぎるハダカ』(2012年)のアベラヒデノブ監督が、『みなと商事コインランドリー』の演出は『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(2018年)などの湯浅弘章監督や『少女邂逅』(2017年)の枝優花監督が、『復讐の未亡人』の演出は『NO CALL NO LIFE』(2021年)の井樫彩監督が、そして、『雪女と蟹を食う』の演出は『ミッドナイトスワン』(2020年)の内田英治監督が、それぞれ担当している。

 ドラマを映画監督で選ぶと、普段は観ないようなドラマに出会うことができるかもしれない。その映像クオリティは最低限担保され、かつ、他のドラマではなかなか観られない映像表現を堪能できるドラマも少なくないだろう。そうして気に入った作品があったら、今度は、その監督の映画を観てみるといいかもしれない。

 映画監督からドラマの可能性は広がる。

参照

※1. https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1902/22/news011_2.html
※2. https://plus.paravi.jp/entertainment/011812.html

※髙木雄也の「高」は正式にはハシゴダカが正式表記。

■放送情報
水ドラ25『ザ・タクシー飯店』
テレビ東京ほかにて、毎週水曜深夜1:00〜放送
※テレビ大阪では、毎週月曜深夜1:00~放送
出演:渋川清彦、高木雄也(Hey! Say! JUMP)、宇野祥平
監督:片桐健滋、清水勇気
脚本:横幕智裕、小嶋健作
音楽:田井モトヨシ
プロデューサー:阿部真士(テレビ東京)、齋藤大輔(ザフール)
制作:テレビ東京/ザフール
製作著作:「ザ・タクシー飯店」製作委員会
(c)「ザ・タクシー飯店」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/taxihanten/ 
公式Twitter:@tx_taxihanten

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