『最愛』はこれまでの“イヤミスドラマ”を超える一作になる?

『最愛』は過去のイヤミスドラマを超える?

 『最愛』(TBS系)から目が離せない。

 『最愛』は若くして製薬会社の社長に就任した真田梨央(吉高由里子)を軸に、2006年と2021年に起きた殺人事件を追う刑事・宮崎大輝(松下洸平)、「真田ウェルネス」法務部の弁護士・加瀬賢一郎(井浦新)らが織りなすミステリータッチのドラマ。2006年と2021年の出来事がクロスする構成で物語が進む。

 『最愛』がオンエアされているTBSの「金曜ドラマ」枠は、1972年『家族日誌』の放送よりスタートし、1977年の『岸辺のアルバム』や80年代の『金曜日の妻たちへ』1~3、山田太一が脚本を手掛けた『ふぞろいの林檎たち』シリーズ、今井美樹と松下由樹が姉妹を演じた1990年の『想い出にかわるまで』など、時代を映す大ヒット作を生み出してきた。その勢いは2000年代以降も続き、野島伸司や宮藤官九郎、堤幸彦、野木亜紀子といった気鋭のクリエイターたちが実験的かつ良質なドラマを生み出す場となっている。

 そんな「金曜ドラマ」枠で、近年、ひとつの潮流を作ったのが“イヤミス”作品だ。“イヤミス”とは、ドラマや映画の鑑賞後や、小説を読み終えた後に、胸に嫌なモヤモヤが残るミステリー作品のこと。

 ここからは『最愛』に至るまでのTBS「金曜ドラマ」“イヤミス”作品の流れを追ってみたい。

 2000年に財前直見が主演した『QUIZ』があったが、この枠で確実に“イヤミス”の太い流れを作ったのは2013年の『夜行観覧車』だろう(出演:鈴木京香、石田ゆり子、田中哲司、杉咲花、夏木マリほか)。誰もが憧れる高級住宅地に越してきた主人公一家が、近隣の殺人事件に巻き込まれるうちに、幸福そうに見えたリッチな住民たちの裏の顔に触れて疑惑を抱く。また主人公自身も長女の不登校や家庭内暴力といった事態に直面する展開が波紋を呼び、ネットの掲示板には登場人物に自らを重ねてアツく語る女性たちの書き込みがあふれた。

 『夜行観覧車』の翌年、2014年には『家族狩り』(出演:松雪泰子、伊藤淳史ほか)と『Nのために』(出演:榮倉奈々、窪田正孝、賀来賢人、小西真奈美ほか)がオンエア。わかりやすい怖さでいえば『家族狩り』の方が上だったが、“あの時何があったのか”を解き明かすミステリーに、美しい自然や青春の痛み、家族問題などを加えた『Nのために』は視聴者から高い支持を得る。

 2016年に放送された『砂の塔~知りすぎた隣人』(出演:菅野美穂、岩田剛典、松嶋菜々子ほか)で描かれたのは、タワーマンション内の人間模様。住民同士の見栄の張り合いやイジメに加え、児童の連続誘拐事件といったショッキングな展開はあったものの、どこか『夜行観覧車』のネットでのバズりを意識した構成といった印象も。

 2017年には『リバース』(出演:藤原竜也、戸田恵梨香、小池徹平、武田鉄矢ほか)がオンエア。10年前に起きた大学時代の友人の死の真相を当時のサークル仲間4人と刑事が追うという内容で、営業職や教師、議員秘書、リストラ間近の会社員と、それぞれの道を歩み問題を抱える彼らの今と10年前との模様が交差しながら物語が進む。

 さて、この流れで「金曜ドラマ」ラバーはすぐにお気づきになったと思うが、5作のうちの3作『夜行観覧車』『Nのために』『リバース』には共通項がある。そう、3作品とも“イヤミスの女王”こと、湊かなえの小説が原作だ。湊かなえ作品は、“犯人は誰か”や“現場で起きた真実”に行き着く一歩手前までの流れが最高で、いわゆるオチになるとその勢いがしぼみがちになったりもするのだが、上記3作品もそうだった。おそらくトリック等、ミステリーで重要とされているファクターよりも“なぜこの事態が起きたか”といった過程や、そこで生まれる人間ドラマにこそ重きを置いている作家だからだろう。

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