『最愛』梨央と大輝に灯った赤信号 真犯人が名乗り出るも胸をざわつかせるのはなぜ?

『最愛』犯人発覚後もなぜ胸をざわつかせる?

「やったのは、俺なんやよ」

 金曜ドラマ『最愛』(TBS系)は、ミステリーの核心部分を先延ばしにはしない。最大の謎として掲げられていた「渡辺昭(酒向芳)を殺したのは誰か」が、4話にしてすんなり明かされる。真犯人として名乗り出たのは、梨央(吉高由里子)の弟・優(高橋文哉)だった。

 ミステリーを楽しむ焦点といえば、「犯人=誰がやったのか」、「動機=なぜやったのか」、そして「トリック=どうやったのか」である。しかし『最愛』で描かれる、現代と15年前の渡辺親子が殺された事件は、もはや「優」が「梨央を守るために」「(康介を)刺した/(昭の)首を締めた」ということで話がついてしまった。

 にもかかわらず、この何も解決されていないような、先が知りたくてたまらない感覚は何なのだろう。あまりにもあっけなく明かされると、むしろまだ話せない事情が隠されているのではないかと勘ぐりたくなってしまう。それは、人の行動はこんな数行の文章で整理されるのほど単純ではないということを、私たちは直感的に知っているからではないだろうか。

 興奮すると記憶を飛ばしてしまう症状に悩まされていた優。そんな彼にとって、誰かを傷つけたという記憶は無意識に奥へ奥へとしまい込んだ箱を無理やりこじ開けるようなもの。そんな優が「僕は人を殺した」と書き置きをして姿をくらませたにもかかわらず、なんのためらいもなく昭の首を締めることが果たして可能なのだろうか。

 もちろん「一生会わんつもりやった」という強い覚悟をするまでの葛藤もあったはずだ。梨央が優と会えないことを実感し泣き崩れたように、優だって最愛の梨央との決別に身を裂かれるほどの痛みがあったに違いない。

 そして、それほどの強い意志を持って朝宮優を捨てたのであれば、すべての記憶に再びフタをして梨央とは全く別の世界で人生を歩み直すことだって可能だっただろう。しかし、彼が選択したのは、素性を隠して専務の後藤(及川光博)に近づき、梨央を見守るという行動。なぜ近くからではなく、わざわざ遠くから……。

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