サプライズ×ハイクオリティの融合を成し遂げた『ガンニバル』 シーズン2の注目ポイント解説

累計発行部数400万部超えを記録した二宮正明の漫画を実写ドラマ化した『ガンニバル』。ディズニープラスにて2022年に独占配信されたシーズン1はその成り立ちや立ち位置といった“側(がわ)”の特殊性、ストーリー・作品性・描写等の“中身”の攻め具合ほか、あらゆる面で異彩を放ち、配信直後からアジア各地でバズを引き起こした。勢いそのままに、2023年にはシーズン2の制作を発表。さらに主演の柳楽優弥が韓国で行われた「アジアコンテンツ&グローバルOTTアワード」でアジアエクセレンスアワードを受賞し、2024年にはシンガポールで開催された「ディズニー・コンテンツ・ショーケース2024」で配信日を発表してアジア各国から詰め掛けた報道陣を湧かせるなど、今日に至るまで快進撃を続けている。そしてついに2025年3月19日より、続編にして完結編となるシーズン2がディズニープラスで独占配信開始(全8話。毎週水曜日に1話ずつ更新)。本稿では改めて『ガンニバル』シーズン1の振り返りを行った上で、シーズン2の期待&注目ポイントを取り上げたい。なお、こちらの記事はシーズン1の結末までの内容を含むため、ぜひシーズン1を視聴いただいた後に読んでいただければ幸いだ。
まずは簡単にあらすじをおさらいしよう。過去に正義感が暴走してある事件を起こしてしまい、なかば左遷される形で辺境の供花村(くげむら)に赴任してきた警察官・阿川大悟(柳楽優弥)。家族と共に移り住んできた大悟たちを村人たちは歓迎するが、一方で監視されているような居心地の悪さを大悟は感じ始める。時を同じくして、地元を仕切る後藤家の当主・銀(倍賞美津子)の死体が森で見つかり、大悟は捜査を始めるも異常な結束を見せる後藤家の面々が行く手を阻み――。「村人が人を喰っている」という告発を受け、疑念を強める大悟と後藤家は一触即発の状態になっていく。
いまでこそ『ワンダヴィジョン』『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』等のMCU作品、『マンダロリアン』等の『スター・ウォーズ』関連作、社会現象化した韓国発の『ムービング』、エミー賞を席巻するなど歴史を打ち立てた『SHOGUN 将軍』等々、多彩なラインナップを揃えるディズニープラスだが、ジェネラルコンテンツを扱う「スター」ブランドが加わった2021年当時に「日本オリジナル作品も製作する」と聞いたとき、一体どんな作品をどのような規模感で生み出すのかピンときた方は少なかっただろう。そんななか初期にデビューしたのが、この『ガンニバル』だ。米アカデミー賞やカンヌ国際映画祭で受賞した『ドライブ・マイ・カー』の山本晃久プロデューサー&脚本家・大江崇允、『岬の兄妹』の片山慎三らが監督として参加する通好みなスタッフ陣で、禁忌のテーマ×ジャンルはまさかの“村もの”という予想の斜め上をいく攻め具合。製作発表時には業界関係者はもとより、映画・ドラマファンからも驚きをもって迎えられた。
世界の視聴者に届けることが可能な動画配信プラットフォーム内のオリジナル作品には、ひとつのセオリーとして「地域性×普遍性」が求められる場合が多い。まずは“設定”や“物語”でその国や地域ならではのローカル感を掘り下げて独自性を強めつつ、“人物描写”や“感情表現”に共感ポイントをちりばめることで、「観たことがないのに面白い」状態を作り出すわけだ。『ガンニバル』もベースはその法則をなぞっているわけだが……そのアウトプットが「日本人の嫌な部分を煮詰めたような因習が根づいた閉鎖的な村×狂気的なまでの家族愛」である辺り、なかなかに常軌を逸している。「スター」ローンチ後の初っ端の企画からチャレンジする気概含め、相当エッジーな勝負作であることは疑いようがない。この部分から窺い知れる通り、どちらかといえば本作は筋運びの面白さはさることながら突き抜けてしまった“ビヨンド感”に視聴者がのけぞり、圧倒され、「ここまでやるのか」「凄いものを観た」と思わず語らずにはいられなくなる熱量に強みがあるといえるだろう。
精緻に作り込んだクオリティは当然ながら、視聴者があてられてしまうほどの本気度――。『ガンニバル』ならではのエネルギーを強く感じさせるのは、どろどろとしたウェットな雰囲気に寄せすぎずにむしろその逆、アクティブな方向に舵を切った部分ではないか。第1話こそいわゆる“村もの”の常套手段である陰湿な気味悪さを描写して「こんな村には絶対住みたくない」感を植え付けるが、静のトーン一辺倒にはしない。よそ者である大悟の介入によって後藤家とのバトルが勃発し、収まるどころか村内を越えてエスカレート。やがて警察の上層部が動き、機動隊が投入される一大事へとスケールアップしていく。白眉といえるのは第2話で大悟が後藤家に単身乗り込むシークエンスで、脅すどころか発砲までしてきた相手に激高し、後藤家の面々を殴り、蹴り、突き飛ばして制圧し「ボケカスが!」と吐き捨てる。これまでの静の雰囲気が動にスイッチし、そこからは容赦ないバイオレンス描写も込みで一気呵成に畳みかけていくのだ。第3話では大悟の凄絶な過去が明かされるとともに、トンネルを舞台に後藤家との銃撃戦が展開。目の前をゴミ収集車が通り過ぎて前につける→荷台部分が開いていきなり発砲→隣の車が体当たりし、後続車両がクラッシュ→大悟VS後藤家の特攻部隊との激闘に、という怒涛の展開に度肝を抜かれた視聴者は多かったはずだ。このシークエンスひとつとっただけでも、近年の「日本の国産ドラマ」の枠組みを優に超えており、ディズニープラスが作る意味を目の当たりにさせられる。