TBSドラマに見る、女性の作り手たちの活躍 “理性を重んじる”人間を肯定的に描く作品が増加傾向に
近年のテレビドラマは、女性の作り手の活躍が目立つ。その筆頭と言えるのが、TBSドラマだろう。
例えば、不自然死の原因を究明する架空の研究機関UDIラボを舞台としたドラマ『アンナチュラル』。脚本を担当したのは、2016年にTBSの火曜ドラマで『逃げるは恥だが役に立つ』(以下、『逃げ恥』)を大ヒットさせた野木亜紀子だが、『逃げ恥』同様、社会における女性差別や労働問題に対する意識が強く現れた社会派娯楽作品だった。
チーフ演出は『Nのために』等で知られる塚原あゆ子。プロデューサーは塚原とよくチームを組む新井順子と『ケイゾク』や『SPEC』で知られる植田博樹。今回、植田はサポートに徹し、作品世界の中核を作ったのは野木たち3人だったとのことだが、興味深かったのは『アンナチュラル』の中に、植田の出世作である『ケイゾク』に対する批評性を感じたことだ。
『ケイゾク』は一話完結の刑事ドラマだが、物語の中心にあるのが妹を自殺に追いやった犯人を追う刑事・真山徹(渡部篤郎)の物語だ。『アンナチュラル』でも妻が何者かに殺された法医解剖医の中堂系(井浦新)の物語が中心にあるのだが、後半になるにつれて、どんどん狂気の世界に突入していく『ケイゾク』に対し、『アンナチュラル』は、どうにか理性の領域にとどまろうとする。最後に登場する猟奇犯罪者の描き方にしても、それは同様だ。
社会からの逸脱ではなく、どうにかとどまろうとする理性的な振る舞いに美学を見出している印象は、金子ありさ脚本で塚原、新井が手がけた『中学聖日記』にも強く感じる。女性教師と中学生男子の「禁断の恋」という触れ込みから、始まる前は90年代にTBSでヒットした野島伸司脚本の『高校教師』や遊川和彦脚本の『魔女の条件』を連想したが、この2作が社会に居場所のない男女の逃避先として禁断の恋があったのに対して、『中学聖日記』は、むしろ必死に社会の側にとどまらせようとする少年の母親・黒岩愛子(夏川結衣)の立場から物語を描いているように見えた。
愛子を演じた夏川結衣は90年代TBSドラマの傑作『青い鳥』で、夫との辛い生活から逃げるために、主人公の駅員と不倫の果ての逃避行の末に自殺してしまう人妻を演じたのだが、風景を美しくみせる叙情的な演出も含めて、本作は『青い鳥』を彷彿とさせる。その意味で『高校教師』『魔女の条件』『青い鳥』という90年代ドラマの古典を継承していたのだが、着地点は真逆のものとなっていたように感じた。