坂口健太郎はいかにして“俺たちの菅波”になったのか 役者人生7年にして築いた個性

坂口健太郎の俳優生活7年の軌跡を追う

 現在放送されているNHKの連続テレビ小説『おかえりモネ』を象徴するキーワードといえば、やはり定期的にSNSのトレンド入りを果たす「#俺たちの菅波」であろう。

 清原果耶演じる主人公の百音が働いていた登米の森林組合に併設された診療所で働く医師で、東京と登米を行ったり来たりする坂口健太郎演じる菅波先生。百音の気象予報士試験の勉強を見てあげたり、森林組合の人々も気を揉むようなぎこちない関係が描かれていた「登米編」から、「東京編」では百音の下宿先の銭湯がちょうど菅波の勤務先の病院の近くということから、1300万分の2の運命的な再会を果たす。そして同時に、小学生のような恋模様に一気に拍車がかかるのである。

 そんな悩ましい菅波と百音の関係性を構成しているのは、2人揃って不器用すぎることが最大の原因なわけだが、それにつけても菅波という人物のキャラクター性があまりにも魅力的で、一気にこのドラマ自体を甘酸っぱいラブコメ色に染めているのはいうまでもない。登場したばかりの頃は、理屈っぽくて正論ばかりを言い、妙に細かい理系男子のステレオタイプを結集させたような描かれ方をしていたものの、物語が進むにつれてそれをうまく活かし、嫌味っぽく見せない工夫が随所に織り交ぜられてきたように思える。

 医師として真摯に人の命に向き合う姿勢はもちろん、ぎこちないなりに百音に対してもまっすぐに向き合おうとする姿。コインランドリーの待ち時間を口実に食事に誘うところや、やたらと間が悪いところもなかなかにユニークである。そしてサメ好きであることを隠そうとした以前のバスのシーンから、今度は自分からサメ展に百音を誘おうとする進歩。

 過去に自分のせいで人生を狂わせてしまった患者がいたことを吐露するシーンなど、理知的でありながらもドライに徹しすぎず、百音と共に悩み考え、歩みを揃えていく準備が整っているところが、この菅波というキャラクターの人間的な魅力といえよう。

 こうしたポイントはもちろん脚本におけるキャラクター設定があってのことだが、否応なしに演じる側とのマッチ具合も問われるものである。そういった意味では、この菅波先生という役に坂口健太郎の配役はあまりにも適任であったと考えて何ら差し支えはないだろう。本作での演技もしかり、近年の坂口の俳優としての安定ぶりを見ていると、まだ俳優デビューしてからたった7年しか経っていないことに驚かずにはいられない。決して主張が強いスターパワーを持つタイプの俳優ではないにもかかわらず、すでにあらゆる作品で「これは坂口健太郎でなければできない」と思わんばかりの確固たるイメージを築き上げているのは、同世代の他の俳優にはない無二性を持つ者であるという何よりの証だ。

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