坂口健太郎はいかにして“俺たちの菅波”になったのか 役者人生7年にして築いた個性

坂口健太郎の俳優生活7年の軌跡を追う

 ざっと坂口の出演作を振り返ってみれば、例えば『とと姉ちゃん』(NHK総合)での植物学を学ぶ大学生をはじめとした、いわゆるインテリ役がとにかくよく似合うのが最大のポイントであることがわかる。これは、連ドラレビュー作の『コウノドリ』(TBS系)から昨年公開された『仮面病棟』といった医師役を含め、『シグナル 長期未解決事件捜査班』(カンテレ・フジテレビ系)でのプロファイラーに、『イノセンス 冤罪弁護士』(日本テレビ系)と、専門性の高い職業の役柄に説得力を生む上では欠かせないイメージである。

『仮面病棟』(c)2020 映画「仮面病棟」製作委員会

 それでいて『シグナル』も『イノセンス』のように何かしらの過去や悩みを抱え、その反動のように少々達観視する術を得たドライな青年というのも坂口の得意分野のひとつであろう。ただドライなだけでなく、そこに裏付けなりはっきりとした理由が存在することがわかると同時に、それが作中で人間的な変化の機会を得る。『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系)をはじめ、『東京タラレバ娘』(日本テレビ系)や『劇場版ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』もそれに近く、『35歳の少女』(日本テレビ系)も同様で、こうした役柄はとくに一定の期間を共有する連続ドラマではより効果的に好感度が高くなる旨味があるのだ。

 その一方で、映画『ヒロイン失格』と『俺物語!!』のようなラブコメ適性も持ち合わせているのはモデル出身のイケメン俳優枠に括られるなかでも、確かな演技力と表現力を持ち合わせていることを裏付けており、はたまた『残穢 住んではいけない部屋』で演じた心霊マニアというニッチな役にも不思議と説得力があるのは興味深い。要約すればインテリかつ専門性の高い職業で、過去を抱えていて、つかみどころのない雰囲気や表現力がアクセントとなる作品になればなるほど、輝く俳優ということか。つまりこの菅波役というのは、究極の理想系ではないか。

 ことに『おかえりモネ』の東京編で百音の気象予報士としての仕事が軌道に乗り始めた第14週ごろから、菅波との関係が一気に盛り上がることで作品全体の奥行きがぐっと拡がったのがわかる。気象予報の話から少し外れ、本作の主題である震災の後の世界を生きる人々の物語が織り交ぜられるシリアスさのなかで、百音の周囲の登場人物たちの心情が一気に露見していく。そして同時に、菅波も突然上京してきた百音の父(内野聖陽)&祖父(藤竜也)を前にして畏まった感じを見せたり、登米の人々の前でささやかな自信を持った表情を見せたりと、堂々とシリアスとラブコメの間を往来するのである。

 すでに『おかえりモネ』の後(厳密に言えば放送日程は少し重なりはするが)の10月からは、TBSの火曜ドラマ『婚姻届に判を捺しただけですが』で本格的なラブコメに挑戦することが決まっている坂口。しかも堅物で真面目で変人で、というキャラクター設定は坂口の得意分野であり、『おかえりモネ』で磨きをかけたラブコメ適性が発揮されるとなれば、“朝ドラ後”という定番の後押しも相まって、今後の俳優としての裾野を大きく拡げるためのチャンスになるに違いない。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK

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