高橋一生主演『岸辺露伴は動かない』なぜ成功? 俳優の演技を通して変換された映像表現
漫画の実写化はなかなかうまくいかないものだが、昨年末に放送されたドラマ『岸辺露伴は動かない』(NHK総合、以下『岸辺露伴』)は、理想の映像化と言える屈指の仕上がりだった。
本作は漫画家の岸辺露伴(高橋一生)が担当編集者の泉京香(飯豊まりえ)と共に毎回奇妙な出来事に巻き込まれていく様子を描いた1話完結のドラマだ。露伴には「ヘブンズ・ドアー」という人を本に変える超能力があり、その力で人の記憶を読んだり、情報を書き込むことで行動を縛ることができる。しかしそんな露伴の理解を超えた怪異が、次から次へと押し寄せてくる。原作は『ジョジョの奇妙な冒険』(集英社、以下『ジョジョ』)シリーズの作者として知られる漫画家・荒木飛呂彦の同名作品。岸辺露伴は『ジョジョ』第4部に登場したキャラクターで、本作は『ジョジョ』のスピンオフとなっている。
『ジョジョ』の特徴は第3部から登場する「スタンド」という超能力の存在で、スタンド使い同士の異能力バトルが見どころとなっている。『岸辺露伴』も『ジョジョ』と同じ物語構造だが、スタンド使い以上に説明のつかない怪異現象との衝突が描かれている。第1話「富豪村」ではマナーを守らないと罰を与える存在。第2話「くしゃがら」は、使うことが禁止されている謎の言葉。第3話「D.N.A」では、言葉を逆さに話す幼女といった謎の存在が登場する。物語は毎回、予想外の方向に向かっていく。
こんな奇想天外な漫画をドラマ化できたこと「そのこと自体に驚いた」というのが正直な感想だ。
そもそも荒木飛呂彦の漫画には、強烈な個性があるため、映像化がとても難しい。アニメ版『ジョジョ』が好評なのは、荒木飛呂彦の文体やリズムを忠実に移植しているからだ。つまり「音の付いた動く漫画」であることを徹底したことが成功の理由だが、これは絵を動かすアニメだからこそ可能なアプローチで、実写では難しい。
では、ドラマ版『岸辺露伴』はどのような見せ方を選んだのか?
本作の脚本は、アニメ版『ジョジョ』と同じ小林靖子が担当しているのだが、どのエピソードも大胆な脚色が施されている。中でも大きな脚色は、「富豪村」にのみ登場する泉京香をレギュラーにしたことだろう。漫画では露伴を語り部とすることで怪異譚としての側面が際立っていたのだが、ドラマ版では泉という普通の人間の視点を持ち込むことで、露伴の奇人ぶりと怪奇現象の異常さがより際立つ作りとなっている。同時に「普通とは何か?」という原作漫画にはない問いかけも生まれている。このようなアプローチは『TRICK』(テレビ朝日系)や『時効警察』(テレビ朝日系)といった男女のバディモノのミステリードラマが得意としてきたものである。他にも、何とも言えない奇妙な後味は『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)と通じるものがあり、これまでテレビドラマが培ってきた手法を駆使することで荒木飛呂彦ワールドを展開していると言える。