前田旺志郎は“普通の青年”をフラットに演じる逸材だ ドラマ『猫』にみる“若さと確かさ”
あいみょん作詞作曲&DISH//が歌う「猫」を原案にした小西桜子・前田旺志郎のW主演ドラマ『猫』が、静かに、瑞々しく、しみじみ良い。
これは、脳に腫瘍があり、医師から余命宣告を受けて自らの死と向き合う女性・金子みねこと、やりたいことや夢もなく、その日暮らしの生活を送るフリーター・天音光司が、一匹の猫をきっかけに出会い、交際を通じて「いつもと同じ帰り道」を二人の視点から描く物語。
二人の毎日は、いつ命が尽きるかわからない不安を抱えつつ、仕事に行くみねこを光司がバス停まで送り、無事帰ってくる姿を光司がバス停で迎えるという繰り返しで綴られていく。
お互いの過去の恋バナをしてみたり、みねこに「ミュージシャンと付き合ってみたかった」と言われたらひそかにギターを練習したり、「同じモノを見てる人とは合う」という会話の流れから「いま何を見てたか同時に言ってみる」ゲームをしたり。急に倒れて一時入院したみねこの退院の日、病院から数歩出たばかりの場所で、光司が手作りケーキを食べさせたり、指輪をあげたり。また、入院していたみねこと、家で一人過ごした光司と、「どっちが寂しかったか勝負」をするつもりが、安堵から光司がマジ泣きしてしまったり。
大部分が二人芝居で成り立っていた本作の、「有限の二人」のささやかな日々は、どれもこれも愛おしく、切なかったのだ。しかし、12月4日に放送された第4話では、突然に光司の死が知らされた。
脳に腫瘍を抱え、不安を抱えつつも明るく生きるみねこを魅力的に演じている小西桜子は、映画『初恋』(2019年)で3000人の中からオーディションで選ばれた生粋の「ヒロイン」だ。
しかし、キラキラの輝きと危うさを放つ小西桜子とは対照的に、抜群の安定感を見せているのが、前田旺志郎である。
若者特有のちょっと面倒くさそうな感じと、恋する喜びや気恥ずかしさ、喪失への恐れ、日々の何気ないやりとりを大切に受け止める包容力と。そうした様々な日常の感情を丁寧にフラットに表現している。
彼の純朴な雰囲気が、作品を甘く切なく、どこか懐かしい物語にしている部分もある気がする。例えるなら、マレーシアのヤスミン・アフマド監督が描く『細い目』や『タレンタイム〜優しい歌』のような空気があるのだ。
それにしても、前田旺志郎がこんなに良い役者になっていくとは。驚いたのは、例えば、綾野剛×星野源W主演の『MIU404』(TBS系)の第3話「分岐点」だった。
先輩たちの不祥事が原因で廃部となった元陸上部の部員たちが、やり場のない怒りを持て余し、イタズラで虚偽の通報を繰り返していた。そんな中、第4機動捜査隊によってチームは壊滅。成川(鈴鹿央士)と勝俣(前田旺志郎)が二手に分かれて逃げる中、伊吹(綾野剛)が追った勝俣は罪を認めて更生を誓ったのに対し、九重(岡田健史)が追った成川はそのまま逃走。行き場を失い、久住(菅田将暉)と出会い、犯罪に手を染めていく対比が描かれた。
ギリギリのところで引き返すことのできた勝俣の後悔と安堵とで溢れ出す涙に、心打たれた視聴者は多かったことだろう。